「決断」に登場する母子ら10組の家族 ©ミルフィルム

京都への避難者も登場「原発事故は終わっていない」

 2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故による放射能汚染を避けるため、自主避難という人生最大の決断を迫られた10家族を、7年かけて撮影したドキュメンタリー映画「『決断』 運命を変えた3・11母子避難」がアップリンク京都(京都市中京区)で上映中です(25日まで)。家族の中には、原発訴訟の裁判で闘う京都府内の母親らも含まれ、監督とともに「避難者がどう生きてきたのか。原発事故が終わっていないことを映画で知ってほしい」と訴えます。

 監督は3・11後、映画製作の拠点を福島に移した安孫子亘(あびこ・わたる)さん。17年には、原発問題を扱ったドキュメンタリー映画で日本映画復興奨励賞を受賞しました。

 「決断」制作は、8年前に偶然、自主避難者と知り合ったのがきっかけ。「子どもを被ばくから守りたい」との一心で、北海道や大阪、京都、沖縄などに自主避難することを決断した10組の家族が登場。その証言で作品はまとめられています。

 普通の日常を送ってきた人たちの生活は3・11で一変しました。「社会を変えたい」と避難先で市議選に立候補して現在、2期目を務める人、避難する権利を求めて裁判に立ち上がった京都に住む女性たち、避難への意見の食い違いから離婚した人、夫は生活のため福島に残り、家族バラバラの生活を続ける夫婦など、さまざまです。

 しかし、自主避難という理由で、東電の賠償や政府と自治体の支援もほとんどなく、多くの家族は「見知らぬ土地で生活するのに精いっぱいだった」と言います。その一方で、「震災から13年、もう自立できるだろう」「いつまで避難しているのか」と言われ、孤立を深めたこともあったと訴えています。

映画に登場する高木さん(左)と福島さん

安孫子監督「立ち上がる母親たちの姿を見てほしい」

 本紙のインタビューに応えた安孫子監督は「メディアで紹介されることも減り、忘れられてしまいかねない自主避難者、特に母子避難者に注視してもらえるきっかけに、この映画がなれば。母親たちが立ち上がる姿を見てほしい」と言います。そして、「今年1月に起こった能登半島地震で、現地の志賀原発で事故が起きていたら、道路は寸断され住民は避難できずにどうなっていたのか。『想定外』が必ず起きることもこの映画で伝えたい」と語りました。

 映画に登場した京都への避難者、高木久美子さんと福島敦子さんは、原発賠償京都訴訟の原告団のメンバーです。同訴訟は、大阪高等裁判所で控訴審が行われ、5月22日に結審を迎えます。2人は「映画は原告団への励ましになり、時宜にかなった上映になります。全国には声をあげることのできない母親たちが大勢います。放射能被害はまだ終わっていなことをこの映画で日本国中に知ってほしいと思います」と話しています。

 上映は京都市中京区の新風館内のアップリンク京都。上映時間はアップリンク京都☎075・600・7890まで問い合わせ。