西院小学校の歴史や子どもの姿を豊かに表現した原画と同小学校OBの田中さん

 今年2月5日に創立150周年を迎える京都市立西院小学校(右京区)で、1月末に完成する新しい体育館に緞(どん)帳(5㍍×10㍍)が新調されます。緞帳の制作は150周年記念事業の一つ。同校の卒業生で同学区在住の和紙切り絵作家・田中道男さん(63)が、そのデザインを手がけました。

 原画(70㌢×180㌢)は、学校の歴史と西院の歳時記、いきいきとした子どもたちの様子が、和紙切り絵で表現されています。タイトルは、「校舎三代記 桜四季彩図」。

 作品の中央には、室戸台風(1943年9月)で木造校舎が倒壊し、同校の児童と教員が亡くなったことを悼む銅像「師弟愛之像」(知恩院内に設置)を配し、両側に年代の異なる校舎で学ぶ子どもたちを表情豊かに描いています。

 人物にフォーカスすると、赤ん坊を背負って通った大正時代の女の子、つぎはぎのモンペ姿の子、焼き芋をほおばる子どもたちに、マスク姿の新入生…と個性的。奥には、いにしえの子どもが遊ぶ様子を影絵で表現。四季の巡りを桜の木の変化で描き、西院地域にゆかりの文化、風物詩を盛り込みました。

 色とりどりの和紙を重ねたり、挿し込んだりする手法で木版画のような仕上がりです。

 田中さんにデザインの依頼があったのは、21年9月。十数年来、同校の土曜学習の切り絵教室や、児童館での活動に関わっているほか、校内に自作の切り絵を展示してきた経緯があり、学校側から声がかかりました。「長年の地道な取り組みと、いろんなご縁のたまものです」と言う田中さん。

 デザインを任され、「巨大な織物になる作品づくりは初めての体験です。後世に残る、その責任の重さも感じた」と言います。

こだわった桜の四季の描写

 3つの案を提示し、全児童・保護者らの投票で採用作が決定。原画作成に約半年かけて、登場人物を増やし、描写を変える試行錯誤を重ねました。

 構想で大事にした思いは、「しょんぼりした気分の時に寄り添ってくれる作品」。小学生の頃、いじめられてよく泣いていた自身の体験と、近年、手話と観音を組み合わせた「手話指話千手観音」を制作するなど、マイノリティー当事者の社会的認知を広げるほか、同じ目線で作品を作る「マイノリティーアート」を探求している作風とも重ねた思いです。

 窓からケーキを落としてしまう子の隣で、ランタンを工作する左利きの子の図は、「失敗もあるけど、希望を持って」とのメッセージを込め、四季を表す桜にも強調した部分があります。「冬の桜の木は、天空に爪を立てるように芽を付けていた。上に向かう力強さが伝われば」と。

 一方で、同校出身のスポーツ選手や有名人、福を招くネコたちも配する遊び心も満載です。

 田中さんは、「緞帳を見て、学校や地域の魅力の発見を楽しむなど、前向きな気持ちになってもらえればうれしい」と話しています。

建設中の体育館