京都市が作成した「交流サロン」の紹介パンフレットを手にする原さん

 京都市は、引きこもりの人や精神障害者の地域での居場所提供事業への補助・委託事業について、2022年度から事業を統合し、予算額も大幅に削減しようとしています。事業を担ってきたNPO法人などからは「事業を継続できない」「安上がりの運営を進めるだけ」と怒りの声が上がっています。

 市が統合を進めようとしているのは、「こころのサポート地域活動助成事業」と「こころのふれあい交流サロン事業」です。

 「サポート事業」は、引きこもりの人たちなどに「居場所」の提供や相談・訪問支援活動などを行う事業。2012年から市が、引きこもりの支援を行うNPO法人へ補助事業として開始し、現在3カ所で運営されています。

 「サロン事業」は、精神障害者が地域との交流などができる居場所づくりとして、1999年にスタートしました。「交流サロン」として順次配置を増やし、現在2行政区に2カ所ずつ、9行政区に1カ所ずつの計13カ所に設置。多くは障害者が働く就労支援施設に併設されています。喫茶コーナーなどがあり、障害の有無を問わず交流・利用できる場を目指してきました。運営は、地域の各種団体などでつくる実行委員会に委託されています。

 市は、統合の理由として、両事業とも「居場所」を提供では、共通点があると説明。4月から「サポート事業」(今年度予算約1700万円)と「サロン事業」(同約4800万円)を統合し、法人への委託事業として居場所提供、相談・訪問支援、啓発活動を行なってもらうとしています。ただし、両事業で予算は計6500万円あったものを、来年度は4800万円に削減する計画です。それにより、各法人への来年度からの年間委託料は、固定費の207万円に、通所・訪問相談支援(1人3000円)などの実績に応じた額をプラスしたものにするとしています。

 これまで「サポート事業」では、補助金として法人ごとに年間、固定費として基本活動費480万円、それに加えて、利用者の利用実績などに応じた20万円前後の加算費が支給されてきました。来年度案では、固定費は480万円から207万円と半分以下になります。

 同事業を行ってきたある法人の副理事長は「この事業は、引きこもりの人たちのセーフティーネットの役割を果たしており、その点では、市を評価してきたのに……」と嘆きます。この法人では「居場所」提供と併せ、「引きこもりの人が楽しみながら、社会と接点が持てる事業を」と、菓子・パン作りや農作業を行なうなどの支援・交流事業をやってきました。「補助金があるからこその事業。もうできなくなる」と訴えます。

 一方、「サロン事業」では、実行委員会ごとに年間約350万円の委託費が支払われてきたのが、約140万円の削減になります。

 「ふれあいサロン上京」を運営する実行委員会委員長を務めていた原龍治さんは、こう訴えます。「上京では充実した運営にしようと精神保健福祉士などの資格などを持つ常勤スタッフ5人、非常勤2人を配置してきました。委託費だけでは当然赤字で、実行委員会の中心となるNPO法人つくしがその補てんをしてきました。こうした努力をしているサロンは他にもあるのに、頑張っているサロンほど運営は厳しくなる」

 市は、サロンのスタッフにどういう人を配置するかは、各サロンまかせで実態も把握してきませんでした。市はようやく来年度から委託要件を設定しました。居場所の人員は常時1人以上、居場所面積は4.5帖(13.2平方㍍)以上、開所時間を週4日以上というもの。原さんは「4.5帖の部屋がくつろげる空間になりますか。それに、相談・訪問活動に市は出来高払いをするというけど、スキルもないスタッフにそんなことできますか。安上がりの運営をさらに進めるだけ」と怒りをあらわにします。

 「京都精神保健福祉推進家族連合会」など4団体は毎年、市への要望書を提出。その際、「サロン事業」について、スタッフには専門的スキルや研修が必要で、かつ複数体制の配置が求められているとしてきました。

 市は今回の統合案について、現利用者には何の説明もしていません。前出の法人の副理事長は「大切なのは当事者でしょう。豪華庁舎など、無駄を削るところはもっとあるはず。わずかな予算を削って、弱い立場の人にしわ寄せするなど、おかしい」と言います。原さんは「運営する団体や現利用者の意見、希望も聞かず、その願いにも反する統合・予算削減案はやめるべき」と訴えます。