本と張扇を手にする野口さん

 本紙連載「沈思する月」を執筆中の日本史研究者・野口孝子さんがこのほど、紫式部の一生を語る講談を創作し、台本を『講談DE紫式部』として出版しました。

 子どもの頃から落語や講談などの伝統芸能が好きだったという野口さん。古代学協会やカルチャーセンターの講座で平安時代の貴族・藤原実資(さねすけ)の日記『小右記(しょうゆうき)』などについて講義をしています。

 兵庫県にある有名な寺院・書写山円教寺(しょしゃざんえんきょうじ)がスムーズに言えないことに気づき、滑舌をよくするため、4年前に大阪講談会旭堂(きょくどう)一門の女性講談師・旭堂南照先生について講談を始めました。

 講談師の名前は天神堂風吹(ふぶき)。師匠から「その読みは朗読ですよ」と指導され、今まで講義をどう正確に分かりやすく語るかは苦心してきましたが、表現方法にはあまり頓着してこなかったことに気づかされました。

自立した女性を“主人公”に

 講談は戦をテーマにしたものが多く、女性は男性の従属的な位置において描かれる作品がほとんどです。野口さんは、自立した女性を主人公にした講談を創作しようと、今作に取り組みました。昨年NHKの大河ドラマで紫式部が取り上げられることになったことから、出版にこぎつけました。

 史実にもとづいて書き、明らかになっていない点は、歴史研究者として許容できる範囲でまとめました。なじみの薄い平安時代を描くために、どう分かりやすく解説的な語りを織り込むか腐心しました。

 結婚についても当時は、男性が女性の家に通うか女性の家に入って同居するなど現代とは逆で、夫婦別姓だったと解説。「夫婦別姓に反対している政治家さんがいるようですが、一千年以上遅れてますねえ」と政治風刺も効かせています。

 知り合いの研究者から「一気に読んだ」との感想が寄せられるなど好評で、「語らせてほしい」と動画にアップする能楽師も現れました。

 野口さんは、「最近の講義はどうやって面白くするか、そこをよく考えるようになりました。本は12席で構成し、1席約15分から20分で読めるようになっています。張扇(はりおうぎ)は好きなところでたたいてもらって結構です。声に出して読み上げてもらうことで紫式部やその時代について身近に感じてもらえればありがたい」と語っています。

 A5判188ページ。定価2500円+税。注文、問い合わせメールgera794@triton.ocn.ne.jp(野口)。