杵屋勝七郎(右)と唄方の杵屋利光

 松本幸四郎、桂米團治らゲスト

 京都在住の長唄三味線方・杵屋(きねや)勝七郎(61)は、今年2月、歌舞伎役者や花街の芸舞妓を多数招いて開催予定だった還暦記念の公演がコロナ禍で中止となりましたが、「京都の伝統芸能に活気を取り戻したい」と公演開催を決意。10月16、17の両日昼に弟子を中心とした長唄演奏会「第十回 としひろ會」を、17日夜には「響の宴」と銘打ち、歌舞伎役者の松本幸四郎、落語家の桂米團治、長唄唄方の杵屋東成らをゲストに招いた特別公演を、いずれもロームシアター京都サウスホール(左京区)で行います。

 「あれだけの公演は二度と出来ないと思うと悔しくて…」と2月の公演中止の際の心境を語ります。

 予定していたゲストは歌舞伎役者の松本幸四郎、中村壱太郎、尾上右近、片岡愛之助ら。花街の祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒から100人近くの芸舞妓も出演予定でした。

 公演中止を伝えるとゲストからは「(次々と公演が中止となるなか)希望の星だった」などの声が寄せられ、絶句する役者もいたと言います。

 期待の大きさを感じ、自ら気を取り直して、2月と同じ会場のロームシアター京都で開催することに。先々まで日程が決まっている歌舞伎役者を招くことは諦め、公演を予定しました。ところがある役者の一言が、企画を変えました。

 今年4月の「四月歌舞伎」(歌舞伎座)。勝七郎は、松本白鸚(はくおう)、幸四郎父子競演の『勧進帳』の立三味線(首席奏者)に、抜擢(てき)されました。フリーの奏者としては異例のこと。千秋楽を迎え、帰ろうとした際、廊下で呼ぶ声がありました。主役の幸四郎。「会社と相談して10月休むことにしました。勝七郎さんの公演に行きます」

 一瞬、耳を疑いました。「後ろからドーンと背中を押された感じ。まるでレッカー車で運ばれる力強さがあった」と振り返ります。

 両日昼の2公演に加え。17日夜に特別公演の開催を決めました。

 幸四郎が、長唄三味線の名手・勝新太郎(杵屋勝丸)が好んだ「流れ」で舞い、「蜘蛛拍子舞」では藤舎呂照として鼓の腕を披露します。このほか、一番弟子の杵屋勝九郎が「廓丹前」で襲名披露。京都の舞踊家・井上安寿子、尾上京、花柳双子、若柳佑輝子がコロナ下で結成したユニット「京躍花」として「娘道成寺」で舞台初出演し、祇園甲部や先斗町の芸妓も三味線の演奏を披露します。

 勝七郎が公演の柱の演目として選んだのが「黒塚」。10歳で三味線を始めて間もない頃、南座で三代目市川猿之助(二代目猿翁)の舞台で魅了され、演奏出来るようになりたい、リサイタルを開くことになった際に演奏したいと腕を磨いてきた曲。歌舞伎では演じられない前段の物語の語りの創作・上演を気心の知れた桂米團治に依頼しました。

 「コロナで次々と公演が中止となり、灯が消えかかっている京の伝統芸能に再びにぎわいを。そのきっかけになれば」と語ります。

 「第十回 としひろ會」 16日午後0時半(正午開場)、17日午前10時(9時半開場)。5000円。

 「響の宴」 17日午後5時(午後4時15分開場)。9500円(前売り9000円)。

 問い合わせ℡075・751・9046(童司カンパニー平日午前10時~午後6時)、℡075・746・3201(ロームシアター京都チケットカウンター午前10時~午後7時)。