計画が中止された土地を背に語る(左から)渡部、新山、只松、伊吹の各氏

 宇治市の住宅地の隣地に、京阪電鉄不動産株式会社(京阪㈱、道本能久代表取締役)=大阪市=が予定していた太陽光発電所の計画が、地域住民らの運動で、このほど中止されました。計画の発覚から2年5カ月。住民らは、「ほっとした」と喜ぶと同時に、市に対し、「太陽光パネル設置の規制条例を早くつくってほしい」と話しています。

 発電所の計画が持ち上がったのは2016年9月。宅地開発で開けた平尾台の南側に隣接する、斜面を含む京阪㈱の土地(木幡須留5―3、1・36㌶)に、2700枚の太陽光パネルを設置(パネル出力702㌔㍗、発電出力600㌔㍗)するというものでした。

 住宅隣接地では、宇治市内初の大規模なパネル設置計画。予定地の目の前に住む只松英一さん(72)は、「ソーラーパネルの反射光による温度上昇で、健康被害を心配した。中止になって良かった」と胸をなで下ろします。

 住民から「景観が損なわれる」、「地価が下がらないか」など、不安や心配の声が上がったものの、17年12月までに4回開催された説明会では、京阪㈱の一方的な対応が目立ちました。

 しかし、18年1月に予定地の樹木が切られ、4月からの工事着工を知らせる告示板が掲げられて、事態が目に見えてきたことから住民の関心も高まり、立ち上げた「平尾台四丁目自治会街創り委員会」(新山球二代表)が中心となって、市への意見書や議会請願、京阪㈱に対する署名運動を展開しました。

光と緑あふれる街づくりを提案

 同年4月、京阪㈱宛てに始めた、「快適な住み心地と和やかさを感じる、光と緑溢れる安住の街」を求める署名はユニークです。

 表題は、「京阪 東御蔵山」とうたい、景観の重視や住む人の視点に立った配慮ある街の形成など、京阪電鉄が住宅販売時に示した街づくりビジョンのパンフレットから引用。太陽光発電計画を中止し、販売時に約束した街をつくることなどを求めました。署名は12月までに、平尾台(1~4丁目)全域から1075人分(世帯数で60・4%)が集まりました。

 京阪㈱の事業推進部の担当者は、「計画に法的な問題はないが、会社が作った住宅街の住民と長くもめるのは良くないと総合的に判断した」と断念に至る理由を語ります。

 同「街創り委員会」は、宇治市に対しても、京阪電鉄が当初、住民に説明した街の景観とパネル設置の計画は相反するとし、街づくりの視点で協議ができるよう、行政としての権限の発揮や規制条例の検討を要望。

 市議会9月定例会には、「宇治市における太陽光発電設備の設置に関する規制条例の策定についての請願」を提出し、全会一致で採択されました。

 意見書や署名づくりに関わった、住民で京都教育大名誉教授の伊吹紀男さん(77)は、太陽光発電所は京阪㈱の緑を守るという街のデザインとは別物だと感じ、「反対や対立ではなく、互いに街づくりを考えようと提起した」と話します。

 説明会の参加者が減り、市の対応でたらいまわしにされた時は、「計画中止は難しいかな」と思ったという渡部紀子さん(54)。その後の協議の中での変化に「流れが変わったと感じ、ダメもとでも頑張ろうと続けて良かった」と言います。

 「再生可能エネルギーの普及には賛成だが、場所や住民合意への考慮が大切」と話す新山代表(68)は、「宇治ブランドの茶畑がソーラーパネルに代わる可能性もあります。宇治市には早期に規制条例をつくってほしい」と警鐘を鳴らしています。

 住民の声届け論戦/共産党宇治市議団

 日本共産党宇治市議団は18年3月、平尾台の住民と宇治市の面談に際し、紹介役を担いました。同年6月の一般質問で、太陽光発電所問題での市の対応を追及。規制条例の制定を求める請願には、紹介議員となり、全会一致で採択しました。

 その後、12月定例会に、市からの条例提案がなかったため、日本共産党議員団が他党に働きかけて議員提案を試みましたが合意を得られず、単独で「宇治市特定太陽光発電設備の設置の規制に関する条例」(案)を建設水道常任委員会に提案。自民、公明、旧民進系の議員が反対、共産党と維新の1人が賛成しましたが否決となりました。