襲名披露公演で「花子」のシテを演じる三世千之丞(中央)と妻役の千五郎(右)、後見を務める三世千之丞の父・あきら(左後方) 撮影者 :瀧本加奈子

 大蔵流狂言師・茂山童司(35)は12月23日、祖父が築き上げた芸名を継ぎ、三世茂山千之丞(せんのじょう)となりました。同日、金剛能楽堂(上京区)での襲名披露公演で大曲「花子」を披きました。

 「花子」は、恐妻家の夫(シテ=主役)が自宅の持仏堂で一夜の座禅をすると偽り、太郎冠者に座禅衾(ばかま)をかぶせて替え玉に仕立て、恋人・花子の元へ行きますが、露見する話。後半、朝帰りの夫が、太郎冠者が妻とすりかわっているとは知らず、室町時代の流行歌(小歌)を引用した謡で逢瀬(おうせ)を綿々と語る場面が見所です。

 恐妻ものを好み、謡(うたい)を得意とした祖父が、晩年孫の童司に上演させようと熱心に稽古をつけました。童司も祖父の謡をスマートホンに取り込み、上演映像を見るとともに、兄弟子や先輩から学び、習得に励んできました。

 三世千之丞は、亡き先代の千作、千之丞の母の命日に合わせて公演を設定しました。

 画家・山本太郎に依頼した華やかでポップな衣装をまとい厳かに登場すると、前半は、わわしく(=口やかましくたくましい)も夫を熱愛する妻役の茂山千五郎家当主・千五郎、太郎冠者演じる逸平を相手に、シテを祖父に習って洒脱な演出でこなし、会場をわかせます。

 後半は祖父、父親ゆずりの高音の声で、音程が複雑に揺れ動く謡を艷やかに披露し、プレイボーイを演じました。後見を務めた父・あきらが、最後に当家で伝統的な「靭猿(うつぼざる)」の付祝言を謡いました。

 このほか公演では、千作が「萩大名」を演じたのをはじめ、千五郎家の狂言師が総出演し、狂言7番、小舞3曲を披露。京都のもう一つの狂言の家、茂山忠三郎家の当主も小舞「猿婿」で花を添えました。