市大授業料半額、正規雇用転換/条例で賃上げ、全国に波及

 非正規労働の拡大や若者の貧困化が社会問題となっている韓国で、労働運動や学費引き下げなどの社会運動が広がり、政治を動しています。その発信源となっている、ソウル市の行政や労働運動に詳しい、脇田滋・龍谷大学名誉教授に話を聞きました。

■朴市長誕生で劇的変化

 近年、韓国の市民活動家と交流するようになり、韓国の労働運動や社会運動について研究しています。日本に近い労働・社会環境でありながら、大きな運動が広がり、劇的な変化が起こっています。4月の京都府知事選でも、ソウルのような変化が起こることを期待しています。

 韓国では、急激な経済成長の後、1997─1998年の経済危機で大量の非正規雇用が増大し、深刻な社会問題となってきました。とくに若者たちが「三放(サンポ)世代」(恋愛、結婚、出産を放棄)、「イケア世代」(品質が良いのに安く売られる)と呼ばれるなど青年問題が深刻で、市民運動や労働組合運動が広がっています。

 韓国社会で大きな希望を与えたのが、2011年10月、野党や市民団体の統一候補としてソウル市長となった朴元淳(パク・ウォンスン)氏です(現在2期目)。朴氏は、進歩的弁護士で、市民団体「参与連帯」事務局長として権力者や大企業の監視などで優れた手腕を発揮しました。

 当選後すぐに、高学費に苦しむ青年の要望にこたえてソウル市立大学の授業料を半額にし、労働団体との協定に基づき、同市と関連機関で働く約7000人もの非正規労働者を正規職転換すると表明しました。

 ソウル市で目立つのは、青年や非正規労働者の生活改善のための積極施策です。15年1月、広域自治体として初めて「生活賃金条例」を制定しました。生活賃金条例は、自治体とその関連機関が直接雇用する低賃金労働者を対象に、最低賃金(韓国は全国一律)より2割~3割程度高い賃金を設定するものです。市と民間業者間の委託契約や「MOU(業界団体と自治体間の協約)」を通じて、民間部門で働く労働者にも適用を拡張しています。ソウル市の生活賃金条例は、モデルとなって全国の自治体に広がっています。そして現大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、最低賃金1万㌆(約1000円)の実現を公約として当選し、過去最大の16・4%もの引き上げで、18年の最低賃金を7530㌆(約753円)としました。

 ソウル市ではその他にも、市が業務委託していた事業を直営に戻すことや、アルバイトの権利章典作成、接客業などでの「感情労働」問題への取り組み、労働相談や法違反是正、中小零細企業での労務管理改善などを行う「労働福祉センター」設置など、多くの画期的な政策が実施され、韓国全土へ広がっています。

■革新自治体の施策取り入れ

 韓国の市民活動家たちは日本のことをよく学び、美濃部都政や蜷川京都府政など、かつて革新自治体で行われた福祉政策や、労働者や労働組合の活動を保障する施策などを取り入れているのも特徴です。

 国政では、2013年に大統領となった朴槿恵(パク・クネ)氏が、友人の国政介入問題などで17年に弾劾(だんがい)されました。朴氏は、「福祉重視」公約を次々に捨てさり、労働組合弾圧や低成果者の解雇自由化など、ソウル市とは真逆の、経済界からの要請に応える政策を進めました。それが国民の強い反発を買って失脚しました。
 
 17年5月の大統領選で、文氏は先程の最低賃金の引き上げをはじめ、正規雇用拡大、労働時間削減や労働組合運動保障、大学の学費引き下げなどの公約を掲げ当選しました。そして、ソウル市政を手本にしながら労働者の権利を守る施策を実施し始めています。

 日本では、森友・加計学園問題が安倍政権を揺るがし、残業の無制限化など「働かせ方改悪」に大きな反発が広がっています。京都でも、進歩的な労働弁護士として活躍されてきた福山和人さんが知事選に立候補されています。福山さんが勝利すれば、ソウル市政のような、社会的に弱い立場の者にやさしく、市民の生活を画期的に改善させる政策が行われると期待しています。
(「週刊京都民報」3月25日付より)