京都の小劇場文化を牽引してきた民間劇場「アトリエ劇研」をはじめ、若いアーティストが安価で利用できる劇場が次々と姿を消していくなか、元アトリエ劇研ディレクターのあごうさとしさんや狂言師の茂山あきらさんらが「京都に100年続く小劇場を!」―と新たな演劇拠点「Theatre E9 Kyoto(シアター・イーナイン・キョウト)」(略称=E9)や創作・稽古・発表の施設を、京都市南区東九条地区に建設する計画を進めています。

■芸術の〝種〟をまき続けたい

 E9は、JRと九条通の間の鴨川右岸ほとりにあった社員寮を改築し、100席規模の劇場(135平方メートル)や、吹き抜け(高さ10メートル)で多目的スペースとして利用できるホワイエ(=休憩所、60平方メートル)、野外広場も備えた文化交流拠点を目指します。劇場は、舞台壁面が全面黒のブラック・ボックスと呼ばれる形式。用途に合わせてレイアウトが可能で、演劇・ダンスの上演はもちろん、映像や美術作品の上映・展示も出来る自由な空間です。

 昨年10月に、建築許可申請の事前調査が終了。2019年春をめどに完成させたいとしています。
 建設主体は、「一般社団法人アーツシード京都」。「芸術の種(シード)を絶やさず、まき続けたい」との思いを込めました。プロジェクトメンバーは代表理事にあごう氏、理事に茂山氏ら5人が就任。建設に向けて御厨貴(みくりやたかし)・東京大学名誉教授をはじめ、劇作家の平田オリザさんなど、約60の個人・団体が呼びかけ人に名を連ねています。

 建設費は約8550万円の見込みで、すべて寄付(ネーミングライツなどを含む)でまかなう予定です。当面、設計・許可申請にかかる経費など約1400万円を集めるために昨年6月、インターネットで支援を呼びかけるクラウドファンディングを開始。9月末までに京都での演劇経験者や趣旨に賛同した全国の600人を超える人々から約1900万円の支援が寄せられました。直接寄付なども合わせ約6000万円が集まる見込みです。

 一方の創作・稽古・発表施設「studio seed box(スタジオ・シード・ボックス)」は、昨年10月からすでに稼働。ブラック・ボックス形式で、広さ約180平方メートル。打ち合わせや調理なども出来るスペースもあります。

■アトリエ劇研が育んだ文化

 京都の小劇場文化を育んできたアトリエ劇研は1984年、アートスペース無門館として開館し、96年、アトリエ劇研と改称しました。同志社大学出身の劇作家で演出家のマキノノゾミ主宰で、同志社女子大学出身のキムラ緑子が看板女優として活躍した「劇団M・O・P」をはじめ、京都市立芸術大学の学生を中心に結成した世界的アーティストグループ「ダムタイプ」、京都造形芸術大学出身・木ノ下裕一主宰の木下歌舞伎など個性的な劇団、アーティストを多数輩出していました。しかし、オーナーの高齢化にともない昨年8月に幕を閉じました。

 これに前後して若者の演劇拠点の壱坪シアタースワン(2015年3月)、西陣ファクトリーガーデン(同年12月)、スペースイサン東福寺(16年12月、貸し会場機能終了)、旧立誠小学校(17年10月、運用中止)などが次々と閉鎖。

■地域の伝統に新たな一ページを

 京都の演劇環境が危機的な事態を迎えたことから、あごうさんたちは、「京都の演劇文化の種をまき続けなければ」「京都に100年続く小劇場を建設しよう」と行動に移しました。

 あごうさんたちは、アトリエ劇研で培ったものを引き継ぐとともに、地域に根ざした文化施設として新たな発展を模索しています。

 東九条地域は、近代に東山トンネル工事などのために朝鮮半島から集められた人たちが移り住んできました。1980年代から韓国・朝鮮人と日本人が交流する文化企画が開催されるなど、国際交流、多様な文化の共生に向けた営みが続けられてきました。あごうさんたちは、地域との交流を進め伝統に新たな一ページを刻みたいと考えています。

 また、2023年度に、京都市立芸術大学の京都駅東部(下京区)移転が予定されており、南側に隣接する東九条地域を芸術や若者のまちにしていきたいと意気込んでいます。

資金などの支援先
ホームページ=一般社団法人アーツシード京都
☎075・744・6127(平日午前10時~午後6時)。
メール=info@askyoto.or.jp
ホームページ=http://askyoto.or.jp

(写真=「Theater E9 Kyoto」の完成予想イメージ図

(「週刊京都民報」1月7日付より)