きゅうたろう君と弟はしょっちゅうけんかをしている。
また!!
そんなことで!!
はー。
やめてえな。
こらー!
もちろんけんか以外にもそれぞれがやってはいけないことを次々にやる。
今日一日の二人のいざこざ。
きゅうたろう君が保育園から帰ってきた。
三輪車に乗ったきゅうたろう君は、キティちゃんの手押し車に弟が乗ったのを見て早速「カーワッテ!」と弟を押しのけた。
「ウギャー!」弟は嫌がった。
「きゅうたろう君!!いいよって言われないのに勝手に乗ったらアカン!ようちゃん、替わってあげようか。三輪車に乗ろう。」
夕飯に二人とも大好きなトウモロコシのゆでたのをあげた。
私には一つ、弟にも一つ、きゅうたろう君には初めから二つあげた。
早々に二つとも食べてしまったきゅうたろう君は弟の右手からトウモロコシを奪おうと手をつかんだ。
「ウギャー!」弟は腕をぶんぶん振り回して抵抗した。
「きゅうたろう君!!二つあげたやろ!もうあかん。残ってるとこきれいに食べとき!」
夕飯が終わるときゅうたろう君は「アンパンカケテ」とプレーヤーを指した。ここ数日どういう訳かアンパンマンのテーマが気に入っているのだ。
電源を入れて青い電気が点滅するのを見て弟ははいはいのスピードを上げた。プレーヤーの前でぐらぐらとつかまり立ちをしたところ、
「ヨウチャン、サワッタラアカン!」
きゅうたろう君は自分がボタンを触りながら弟の手を払った。
「ウギャー!」弟は倒れた。
「二人とも触ったらアカン!」
アンパンマンのテーマを聞きながらきゅうたろう君はアンパンマンのめいろ絵本を開いた。迷路といってもきゅうたろう君は塀があっても橋が壊れていてもずんずん通っていく。
「ママー。ドコトオル?」
二人で本を見ていると弟がペタンペタンと近づいて来た。
そしてアンパンマンの絵本を取ろうと、開いたページにバン!と手をついた。
「キュウチャンノ!!」
きゅうたろう君は本にしがみついた。
「ウギャー!」弟は抗議した。
「きゅうたろう君!二人の本!ようちゃん!お兄ちゃんがいま見てたの!」
お風呂から上がってみかんをあげようとお皿に入れて私が座ると、二人ともお皿に突進してきた。
「ミンナノミカン!ヨウチャンダケノトチガーウ。」
きゅうたろう君は弟の手を押しのけながらお皿に手を伸ばしている。
弟はみかんの皮が何枚も口の中に残っているのに口を開けて私の膝に立っちしている。そしてもう片方の手はきゅうたろう君の手をつかんでいる。
「きゅうたろう君!みんなのみかんって…ひとりで食べてて…。ようちゃん!ごっくんしてから次を食べて!」
二人とも夜は早くネンネする。
しかし両方寝付くまでベッドの上は騒々しい。
「きゅうちゃん、ようちゃんすぐにネンネしそうやから本読んで待っててくれる?」
「キュウチャンモネムタイヨー。キュウチャンサキネンネー」
先にきゅうたろう君にぽんぽんしていると、弟が私の背中やきゅうたろう君の胸に両手をついて立っちしてくる。
「ヨウチャンヤメテー!ペン!」
「ウギャー!」
「……」
疲れた。
久太郎と弟
仕事を育児休暇で休みはじめてからそろそろ一年だ。
きゅうたろう君を保育園にやり、弟と一緒に過ごす日々だ。
自分の時間は相変わらずないが、きゅうたろう君もおっぱいをやめ、弟も夜は寝るようになってきたからずいぶん楽になってきた。
そろそろ仕事に戻りたいなあ。
何度もそう思うが夫の帰りが毎日2時3時なのと、自分の仕事が変則勤務なのがどうしても引っかかって決心できない。
私が夜10時近くまで働いたら、夫が子どもたちにご飯を食べさせるわけだけど、あの人、調理して二人の幼児に食べさせられるかなあ。
いや、買い物からやってもらわないと。
子どもたちは私と寝るのに慣れているのに、パパとネンネできるかなあ。
彼の睡眠時間はもっと減るだろうなあ。
変則勤務じゃなくても、私は今と同じだけ子どものために時間を使うのは無理だろうなあ。
あー、それじゃあ毎日靴を洗ってあげることも、晴れの日にお布団を干してあげることも、おやつを手作りしてあげるのもできなくなるんだなあ。夕飯の後電車を見に出かけるのも疲れてできなくなるのかなあ。仕事のイライラを子どもにぶつけてしまわないかなあ。
やっぱりもうちょっとおうちにいてようか。
いつもこんな感じで復帰する決意は固まらない。
育児と仕事
きゅうたろう君の靴はくさい。
保育園では素足に靴を履くのでくさくなるのだろう。
私は6月に入って連日きゅうたろう君の靴を洗っている。
きゅうたろう君はなんと3足のスニーカーと2足のサンダルを持っているが、お気に入りは赤いスニーカーだ。
だから赤いスニーカーは常にくさい。
それでもきゅうたろう君はお構いなしだ。
「キョウハー、エーット、アカイクツ!」
と毎日毎日赤い靴を選択して出かけようとする。
なかなか洗わせてくれないのでこっちも知恵を絞る。
「きゅうちゃんの今日の帽子は黄色と緑だから、靴も黄色のを履いたらかっこいいよ。」
とか、「保育園の鞄はオレンジ色だからアンパンマンの靴のオレンジ色と一緒だね!」
きゅうたろう君は(そんなもんかな)って顔をしているけど、別の靴を履いて出ていってくれる。
きゅうたろう君のうんこもくさい。
当たり前だ。
おしっこ、うんこがだいぶ言えるようになってきたものの、うんこはまだオムツの中で頑張らないとどうも気分がそがれるようだ。たまにパンツをはいているにもかかわらずその中でしてしまう。
「クチャイクチャイ。」
自分で鼻をつまんで言うのはいいが、
「イッパイデタ?」「トウモロコシデテル?」「ミーセーテ!」
うんこに愛着があるのがありありだ。
私はきゅうたろう君の靴もうんこもくさいけど別に汚くない。
暑い中、玄関に座ってきゅうたろう君の靴やトイレ用踏み台を洗っているとき、トイレできゅうたろう君と弟と3人で「うんこばいばーい」と流すとき、何とも言えない幸せな気分になる。くさいものを扱って幸せだなんて思っている自分に笑ってしまう。
きゅうたろう君がうちにくるまで
「子どもは汚くてうるさくて金食い虫だからキライだ」と豪語してきた。
汚くてうるさくて金食い虫なのは当たっているが、そんなことを超越した存在なんだなあ。
くさいものを扱うとき。
自分の感じ方や生活を変えてしまった小さい人の存在を大きいと感じる瞬間だ。
きっときゅうたろう君が生きている証だからだ。
日々のこと
きゅうたろう君は私を「ママ」と呼ぶ。
しかし、少なくない頻度で「ユウコ」とも呼ぶ。
先日出かけた琵琶湖博物館で、あちこちの水槽にいろいろな魚が泳いでいるのを見て狂喜乱舞したきゅうたろう君は
「ユウコ!オイデ!」
と大声で私を呼んだ。
ちょっと恥ずかしい。
恥ずかしいついでに書いておくと、鯉が泳いでいる池の前で「鯉のぼり」の歌を大声で歌われた。6月の半ばなのにきゅうたろう君の中では「鯉のぼり」は未だにヒットしている。日曜日。結構な数の客の前でフルコーラスを歌って満足なのはきゅうたろう君だけだ。
同じ日、玄関で三輪車に乗って夢中で遊んでいて、トイレに行く途中でおしっこをオムツの中にしてしまったきゅうたろう君は
「ユウコー!オシッコデチャッタヨー!ヌガセテヨー。」
と悲壮な声を上げた。
なんで「ユウコ」やねん。
そうかと思うとマイク片手に「アナタノオナマエハ?」
とお返事ごっこの時には
「オオハラママ!」
と呼んでいたりする。
そこは「オオハラユウコ」だろ。
意味がわからない。
小さい頃から「ユウコ」は周りにたくさんある名前で「ユウコ」とそのままの名前で呼んでもらったことなどほとんどない。夫もそうは呼ばない。
しかし自分の子どもに呼ばれるとは思っていなかったなあ。何でだか気恥ずかしい。
日々のこと
きゅうたろう君はときどきひどいことを言う。
きゅうたろう君はよく歌を歌っているので、それに合わせて一緒に歌うと
「ウタワントイテ」
と言われることがある。
お風呂でつかるのが嫌いなきゅうたろう君に、上がり際に数回洗面器でお湯をかけてあげるのだが
「ナンカイモカケンデイイ」
と毎回言われる。
でもたまにかわいいことも言う。
弟に音の出る絵本に合わせて歌を歌っていると
「ユウコジョウズ」
といってくれた。
嬉しくて何回も歌っていると積み木に夢中になっているきゅうたろう君は背中を向けたまま
「ヤカマシイ」
と言った。
どこで覚えてくるんだろう。
おばあちゃんはきゅうたろう君のそういう言動に明らかに傷ついている。
「ウンコデタ。ママー。」
おばあちゃんがオムツを替えようとすると
「ヤメテ!オバアチャン、アカンノ!」
「ママ!タベサシテ!」
おばあちゃんがあーんとすると
「ママイイノ!」
おばあちゃんが
「おばあちゃんがやってもいいか?」と聞いても常に
「アカン」
だ。
傷つかなくてもいいとは思うけどおばあちゃんがちょっとかわいそうだ。
日々のこと