(左から)板垣教授、豊福弁護士、郭理事長、田川館長、(一人おいて)、佐藤氏=4日、ウトロ平和祈念館

 ウトロ地区放火事件をめぐる京都地裁でのヘイトクライム裁判の判決を受けて、一般財団法人ウトロ民間基金財団と京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会は9月4日、シンポジウム「ウトロ放火事件から見る社会からの『排除と孤立』」を宇治市のウトロ平和祈念館内で開催し、オンラインで配信しました。

 「求める会」の佐藤大氏による事件の経過や裁判の経過報告の解説のあと、豊福誠二・ウトロ弁護団団長が「京都地裁判決の内容」、金尚均(キム・サンギュン)・龍谷大学教授が「ヘイトクライムにおける量刑」、板垣竜太・同志社大学教授が「ウトロ事件から見る排外思潮」、師岡康子・外国人人権法連絡会事務局長が「判決とヘイトクライム対策」、田川明子・ウトロ平和祈念館館長が「ウトロ平和祈念館の意義」をテーマにそれぞれ報告。郭辰雄(カク・チヌン)・一般財団法人ウトロ民間基金財団理事長が、発言しました。

「民主主義社会において到底許容されるものではない」検察側主張していない点を提示

 豊福弁護士は、日本ではヘイトスピーチやヘイトクライムを規制する法がなく、刑量に考慮されてこなかった問題点を指摘し、京都におけるヘイト事件刑事裁判の歴史を振り返り、今回の判決の前進面とともに、人種差別に言及しなかった限界性を解説し、金教授は、裁判官は「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人々に対する偏見や悪感情等に基づく」とヘイトクライムの行為の背景にある動機に言及し、行為が「民主主義社会において到底許容されるものではない」と、検察側も主張していなかった点を提示したことは「評価すべき」と主張。

 板垣教授は、偏見の社会性についての研究について触れたうえで、今回の判決で、(加害者の)暴力行為が「偏見」や「敵対感情」に基づくことを認定し、その動機が「はなはだ悪質」だとして量刑の厳しさの根拠としたことは、「ヘイトクライムないし人種差別的な暴力行為の判例と意味付けていく必要がある」と言及し、師岡康子・弁護士も「実質的にはヘイトクライムを非難した判決」と評価し、ヘイトクライムを規制する法整備や包括的対策の必要性を強調しました。

 郭理事長は、ヘイトクライムに対して、あいまいな態度しか取れなかった日本の司法の限界を指摘するとともに、「被害者の声、支える見守る人たちの声があって、このような事件は『民主主義社会にあっては到底許されない』とまで、踏み込んだ判決を引き出せた」として、「人種差別、外国人差別は法的に許されない」という合意形成、規範をつくる決意を語りました。