「成道聖地拝陽」(部分) 襖7面 2018年 真宗大谷派(東本願寺)蔵

 戦後、日本画の革新を目指して始まったパンリアル展に若年期10年間出品し、その後、京都市美術館のあり方など芸術振興について発言してきた日本画家・畠中光享(はたなか・こうきょう)さん(74)が、東本願寺御休息所の襖絵や掛け軸を寄進したことを記念して、大谷大学博物館(京都市北区)で企画展「釈尊への憧憬展」が開催中です(7月31日まで)。

 寄進した襖絵は、釈迦が菩提樹の下で悟り(=成道)を開いたとされる聖地・ブッダガヤの夕景を、傍らに流れるガンジス河の支流・ネイランジャナ河の対岸から臨んだ7面の大作「成道聖地拝陽」をはじめ、釈迦が阿弥陀経を説いた聖地・祇園精舎の、釈迦の住居跡の夜景を群青でまとめた「祇園精舎香堂趾寂静」など。釈迦の生涯と経典『浄土三部経』(「仏説無量寿経」「仏説観無量寿経」「仏説阿弥陀経」)を説いた旧跡の風景を象徴的に描いています。いずれも、同企画展で展示されています。

 寄進作のほか、「仏説阿弥陀経」から多様な個性を認める一節を引いて、人の姿で表現した作品や、親鸞の弟子が創建した勝願寺(茨城県古河市)の本堂再建にあたり、祇園精舎跡の風景を写実的に描いた「祇園精舎趾の奉献塔」、ブッダガヤが毎夜灯明で埋め尽くされる様を象徴的に表した「一灯」などを展示しています。

 畠中光享さんは、1947年、奈良県の真宗大谷派の寺院に生まれ、子どもの頃から絵が好きだったといいます。大谷大学文学部史学科入学後、同大助教授だった日本画家・下村良之介さんと出会い、在学中に初個展を開催。卒業後、下村さんらのパンリアル美術協会によるパンリアル展に出品。78年には、京都市立芸術大学日本画専攻科を修了します。

 74年から毎年のようにインドを訪れ、取材を重ねるとともに、自坊で10年ほど住職を務め、経典を掘り下げ、独自の作風を構築しました。

 また、若い頃から、下村さんに誘われ、歴史学者の奈良本辰也氏をはじめ、林屋辰三郎氏、哲学者の梅原猛氏ら京都の文化人との交流を深め、朝日新聞の連載随筆「両洋の眼」(文・吉田光邦)、同紙連載小説「チンギス・ハーンの一族」(文・陳舜臣)、日本経済新聞の連載随筆「古代幻想」(文・梅原猛)、家庭画報の連載随筆「賀茂川日記」(文・岡部伊都子)などの挿絵も担当。

 母校大谷大学には作品を寄進するともに、同窓会誌表紙にも作品を提供。インド美術についての授業も持っていました。

 今回の展示について畠中さんは、「私は自然や主に東洋の歴史に学び、作品を制作してきました。これまで100年に一度は疫病が流行し、人々は乗り越えてきました。コロナ禍のもとで今、厳しい状況にありますが、新たな未来を見据え、歴史を見つめ直す機会になれば」と語っています。

 午前10時~午後5時(入館は午後4時半まで)。日曜・月曜休館。無料。一般の鑑賞は、要事前予約(午前10時、11時、正午、午後1時、2時、3時、4時入館)。HP=https://www.otani.ac.jp/kyo_kikan/museum/nab3mq000008elsx.htmlまで(前日正午までに予約)。ファクスの場合来館希望日3日前までに申し込み(FAX075・411・8146)。問い合わせ☎075・411・8483(大谷大学博物館)。

「祇園精舎趾の奉献塔」 2021年 襖2面 勝願寺2面