京都大学防災研と共同実験も

 厚生労働省が国内最高水準の技能者として選ぶ、今年度の「現代の名工」に、京都府内から8人が選ばれました。その一人が、かわらふき工で、京都府瓦工事協同組合副理事長の光本大助さん(62)=京都市北区=です。

 「京都は瓦屋根があっての町。瓦文化を守り、地震に強い屋根づくりをしたい」――。瓦ふき職人歴40年余り。瓦への愛と研鑽を惜しまない職人の気概が、より安全な瓦の施工方法確立へと結実し、表彰につながりました。

 父親も瓦ふき職人。洋風住宅やマンションに押されて瓦屋根の需要が低迷するもと、父の口癖は「継がなくてもいい」でした。

 別の仕事を探そうと夜間に京都工芸繊維大学に通いながら、父の仕事を手伝う中、瓦屋根の美しさや職人の仕事ぶりに魅了されてしまいした。今では、住宅だけでなく、文化財の社寺や伝統的京町家の復元や改修も手掛けて、京の景観保全にも貢献します。

 そんな職人人生に衝撃を与えたのが、1995年の阪神・淡路大震災でした。1週間後に被災地に入り、瓦屋根の重みと揺れでつぶれた木造住宅が、延々と続く光景に息を飲みました。「瓦が人の命を奪った」との声も聞こえてくるほどでした。倒壊を免れた知人宅に泊まり込み、修繕に追われながら、決意したのは「瓦の信頼を取り戻す」でした。

辿り着いた「桟葺」工法

 当時、府瓦工事協同組合の理事を務めていたことから、組合に技術委員会を発足。自作の瓦屋根振動実験機を使って倒壊実験を繰り返しました。専門家の意見を聞きたくて、実験の録画を持って、京都大学防災研究所に飛び込みました。その熱意は研究所の教授を動かし、共同実験が実現しました。

 屋根ごとひっくり返して瓦が落ちないかなど、徹底した実験を実施。詳細なデータを基に導き出した一つが、「桟葺(さんぶき)」工法への転換でした。桟葺とは、土を使わず、屋根に桟を渡して瓦をくぎで固定するやり方です。関東大震災に遭った関東や雪の重み対策のために雪国では、一般的となっていました。一方、関西で主流だったのは、瓦の下に土を置いてふく、伝統工法の「土葺(つちふき)」でした。

 もう一つが、屋根面同士の接点のため、地震の際の揺れが集中しやすい棟の施工方法の改良です。棟を固定するためセメントを使う地域もありましたが、棟に芯を入れることでより強度を増すことができるなど、棟のより安全な施工方法を確立しました。

 労力と工夫を惜しまない仕事ぶりは、業界の中では知れわたっています。京町家の改修では、昔ながらの屋根の雰囲気を壊さないように、古い資料を参考に、瓦に使う粘土の質にもこだわります。

 職業訓練指導員として、後進の育成にも力を入れます。会社には約10人が働き、半分が10~20代です。「若い職人に技術を教えながら、現場にもこだわって、現役を続けたい」。言葉に力を込めました。

「週刊京都民報」12月6日付より