京都市は、建物の高さ制限について、特例の許可を民間にも広げる規制緩和方針案を発表し、10月27日からパブリックコメントを開始しました。これまで「特例許可」の対象は事実上、公的施設に限定されてきました。ところが、今回の建物の規定要件は「景観への配慮」などとした曖昧なもので、歯止めのないまま高さ規制の空洞化が進む危険性が十分にあります。住民団体の代表や専門家は「新景観政策の理念に反し、なし崩し的緩和は京都のまちにとって百害あって一利なし」と反対の声を上げます。

 「特例許可」は、新景観政策(2007年)で市街地一帯の高さ規制を強化する際、「きめ細かなまちづくり」を目的に導入されました。これまでに制度を活用した建築物は8件で、うち京都大学付属病院や同志社女子大学など7件が病院や大学施設です。

 パブリックコメントの説明資料によると、今回の案は、新景観政策の「更なる進化」策の一つです。特例を民間に拡大するに当たり、「景観などへの配慮」や「まちづくりに貢献する」ことが条件とし、その上で▽事前の構想段階で、事業者は周辺の景観やまちづくりのビジョンに適合するかを住民と協議▽住民の意見を計画に反映し、緑地やオープンスペースの設置▽建物の完成後は、地域のまちづくりへの貢献とその活動状況の報告―などを求めるとしています。また、事業者と協議する住民は、町内会や自治連合会、市が認定するまちづくり組織「地域景観づくり協議会」などを想定しています。

 しかし、今回の規定案は、どれも曖昧です。協議地域の範囲は定められておらず、住民の意見がどこまで計画に反映されるのか、その保障も示されていません。また、地域への貢献、景観への配慮といった抽象的文言で、明確な許可基準や高さの上限設定もありません。このままでは規制緩和だけが先行する可能性もあります。

 既に、市は京都駅東南部に続き、五条通沿道(JR丹波口駅~西大路通)についても、一定の条件のもとでの高さ規制の緩和(20㍍→31㍍)をしています。

 今回の案は、それにに続くものです。景観政策課は今後、パブリックコメント、都市計画審議会(開催時期は未定)を経て運用を決めるとしています。

 パブリックコメントは11月25日まで。市の説明会が6日(金)、12日(木)いずれも午後7時~8時半まで、「ひと・まち交流館 京都」(下京区河原町五条下ル東側)地下1階の景観・まちづくりセンターで開催。問い合わせ☎075・222・3397(景観政策課)。

谷口親平さん

「住民協議」歯止めに疑問■姉小路まちづくり協議会事務局長 谷口親平さん

 今回の案で、市は住民が事業者と協議し、計画に一定の歯止めをかけるとしていますが、それはきれいごとでしかないでしょう。

 私たちの姉小路まちづくり協議会も含め市内には11の協議会がありますが、どこも地域づくりまちづくりに骨を折ってきました。確かに、地域での力を養っていくことは必要ですが、市は私たちの活動にどれだけの支援をしてきたでしょうか。

 建築や都市計画の専門家でもない市民が、事業者と対等に話をし、住民の総意をまとめ、事業計画に反映させていくことは、相当の力量が求められます。事業者の計画に押し切られる地域が出てくるでしょう。特に、事業者の要望の強い幹線通りには、住んでいる住民自体が少なく、事業者の計画が地域の総意となる可能性もあります。地域とは何ぞやと言いたい。

 市民は、市に協力し、一緒になって京都のまちを守ろうと努力しています。なし崩し的規制緩和は、京都のまちづくりにふさわしくないと考えます。

片方信也さん

都心再開発の規制こそ■京都・まちづくり市民会議代表委員、日本福祉大学名誉教授 片方信也さん

 今回の市の説明資料には、「住民が安心して住み続けられる」という言葉が全くありません。新景観政策が市民の後押しで策定されましたが、その最大のポイントは高さ規制であり、住民が求めた理念は「住み続けられる」まちでした。市が守るべきはこの理念です。

 市は、新景観政策の「進化」を標ぼうし、「景観に配慮する」「まちづくりに貢献する」などとしますが、民間事業者の好き放題の建設を認めるための詭弁に過ぎません。

 再開発で「活性化」を狙い、商業複合施設やホテルなどの誘致を促進し、地価高騰や住民追い出しを引き起こす「ジェントリフィケーション現象」が広範囲に起こっています。京都も例外ではなく、京都駅一帯で進んでいる市街地の変貌はその典型です。本来、京都のまちを守り、この深刻な現象に根本から立ち向かうには、新景観政策を守ることこそ必要です。