「弔いの森」 生命尽き、苔むして大地に横たわる老樹の周りを若い木々が取り囲む。あたかもそれらの木々がその死を弔っているかのようにみえる

 北陸新幹線の敦賀―新大阪間延伸のルートが京都丹波高原国定公園内、京都大学芦生研究林近くを通ることが発表されているもとで、「京都にこんな豊かで貴重な自然が残っているにもかかわらず、破壊される可能性があることを知ってもらいたい」と京都市右京区在住の写真家・広瀬慎也さん(56)がこのほど芦生原生林をメーンに周囲の森も含めた写真集『とこしえの森~水と緑が育む小宇宙』を出版しました。

 「今回は売れ行きを気にせず自分がやりたかったことを思う存分やりました」。梅雨の時期に撮影したものに絞り、「もののけが出てくるようなおどろおどろしく、見てゾクゾクする、森本来の姿が感じられるものにしたかった」と言います。

 死して苔(こけ)むす倒木を生きている樹々があたかも見送っているように思わせる写真をはじめ、けものが雄たけびをあげているような形の切り株、闇の中で木の根や葉がメタリックに輝くものなど、どれも野性味あふれ、個性的です。

 多くの作品が、緑の濃い霧に包まれて幻想的な世界を演出しています。白ではなく緑となるのは、葉を通過した緑の光が霧の中に溶け込んでいるから。高い樹々に囲まれ、うっそうとした森の中でしかも、湿度の高い時期と場所でしか見られない現象です。

信頼築くなかで見えてきた素顔

 1993年から本格的に撮影するように。97年に芦生を一周し、撮影スポットが少しずつ分かるようになってきました。「ポートレート(人物写真)と同じで、対話を重ね、信頼を築いていくなかで、相手が少しずつ素顔を見せてくれるようになる」と言います。

 その中でたどりついたのが、梅雨の時期の姿。「この時期に森に入ると現実なのか夢なのか、自分が生きているのか、死んでいるのかわからないような不思議な感覚になる。夜でも星の明かりで輝き、生き物の声に満ちあふれ、別の小宇宙にまぎれこんだ幻想にとらわれる」

 その理由を考えてきました。長い時間をかけて海洋プレートの沈み込みによって形成された地層が隆起して山となって、水分を多く含む地層を形成。そこを長い時間をかけて湧き出てきた水が樹々を潤し、何千、何百年かけて大樹が育つ。「人類が住み始める前からの歴史が宿り、人と自然が共生していたはるか前の記憶がよびさまされるのでは」と述べます。

 「人は自然を支配できない。破壊していくといつかしっぺ返しがくる。北陸新幹線の延伸工事など、何が起こるかわからない。絶対にやってはいけない」

 2000円+送料。問い合わせ☎090・5157・5356、メールwfqwr226@ybb.ne.jp(広瀬)。