鉄道・運輸機構が公表した環境影響評価方法書

 北陸新幹線の敦賀―新大阪間の延伸をめぐり、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は11月26日、環境影響評価(アセスメント)の方法書を公表しました。方法書は、関係の9市町(京都市内は各行政区・支所)で縦覧が始められ、12月25日まで同市町の計33会場で説明会が開催されます。府内を縦断する巨大開発となる同延伸計画は、環境への悪影響や地元自治体の財政負担、並行在来線問題など市民や専門家から多くの懸念の声が上がっています。問題点をQ&A形式でまとめました。

■「大深度地下」とは

地下40メートル以深を工事/地権者の了解は不要

 Q.京都市内中心部や山間部では地下深くを通るとされています。主に市街地で考えられている「大深度地下」とは何ですか?

 A.市街地などでは「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度地下法)に基づき、地下40メートル以深の地下を新幹線が通ることになります。同法では、地権者の了解を得ずに地下を工事することが可能になります。東京・外環道の大深度地下トンネルの建設工事では、世田谷区内のジャンクション予定地で地下水が地上に湧き出す事故が起こり、問題になりました。東京・外環道建設をめぐっては、沿線住民らが同法は憲法違反だとして、住民訴訟をたたかっています。

■並行在来線問題とは

JRが経営分離、三セク化で運賃値上げ・財政負担に

 Q.並行在来線とは何ですか。どういう問題が考えられますか?

 A.整備新幹線が開通した各県では、整備新幹線区間と並行する在来線をJRが経営分離しています(沿線府県・市町村の同意が必要)。経営分離された在来線は沿線各自治体などが出資する第三セクターの運営となるため、各自治体は運行支援へ数百億円規模の税金を投入せざるを得ず、財政負担に苦しんでいます。各鉄道では、1割~5割ほどの運賃値上げやJRとの乗り継ぎ料上乗せ、バリアフリー化・駅舎整備の遅れなどが問題となっています。敦賀─新大阪間の並行在来線がどこになるのかは発表されていません。

■工事ではどんな事故が

河川・井戸の水量減少/トンネル掘削で陥没も

 Q.他の整備新幹線やリニアの工事で、どのような事故や問題が起こっていますか?

 A.九州新幹線長崎ルートの長崎県諫早市のトンネル工事に伴い、周辺集落を流れる河川の水量が減り、田植えができなくなる問題が起こっています。西九州ルート(佐賀県武雄市─長崎市)では、全31本のトンネル工事のうち、11本で周辺の河川や井戸の水量が減少しました。

 愛知県名古屋市では、県庁近くのリニア中央新幹線「名城非常口」掘削工事で、深さ約50メートルまで掘り進めたところ、大量の地下水が湧き出たため、昨年12月に工事が中断。止水工事を続け、今年11月末に工事を再開しました。

 岐阜県中津川市では、掘削が進むリニア中央新幹線中央アルプストンネル山口工区(4・7キロ)の工事で、作業用トンネル(斜坑)の地上部が陥没し、今年4月に工事を中断。11月に工事を再開しています。

■住環境・動植物への影響は

各地で基準超える騒音/貴重な湿地に影響懸念

 Q.住環境や希少動植物への影響はないのでしょうか?

 A.騒音問題について、鉄道・運輸機構は、長野─金沢間で測定した51カ所(16年度)のうち、34カ所(67%)で環境基準(住宅地で70以下)をオーバーしているとしています。騒音対策として、エアコン設置や二重窓などの対策がとられ、補償件数は1300件を超えています。

 貴重な自然環境をめぐっては、ラムサール条約(国際的に希少で、多様な生態系を持つ湿地が対象)に登録された、福井県敦賀市の中池見湿地で、周囲の山を貫く工事が行われ、地下水への影響が懸念されています。この掘削工事で、掘削土から環境基準を超えるヒ素が検出され、今年2月に工事が一時中断する事態となりました。

■建設費はいくらかかる

国試算は2.1兆円に/府負担2~3千億円想定

 Q.北陸新幹線の建設費はいくらになるのですか?

 A.JRが同機構に支払う貸付料(新幹線の施設使用料)を除いた額を国と都道府県が2対1で負担しています。同新幹線金沢―敦賀間(2022年度開業予定)では、事業認可当初から2度にわたり建設費が増額され、約2400億円増の1兆4000億円超となり、問題となりました。

 長野、新潟、富山、石川の各県(福井県除く)は、(貸付料充当額を入れずに)総工費の3分の1を県負担額と想定し発表しています。他県の予算ベースの費用負担や、国土交通省の資料から試算すると、府の負担額は2000億~3000億円超え(貸付料充当額含まず)となることが想定されます。