長時間残業合法化を「改革」と呼ぶ違和感

 長時間労働に歯止めがない「高プロ制度」の創設を含む「働き方改革」関連法の成立から今月で1年。「過労死等防止対策推進法」(2014年)の成立から5年が経ちます。労働行政の課題や、過労死を生まない社会をつくる取り組みなどについて、「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子(えみこ)代表世話人(過労死等防止対策推進協議会委員)=京都市伏見区=に話を聞きました。

 6月は、弁護士らによる全国一斉電話相談「過労死110番」があり、例年だと厚労省が「過労死等の労災補償状況」を発表する時期です。

 厚労省の自殺統計では、勤務問題が原因とされるのは約2000人。その1割ほどが労災申請をし、国が認定するのは100人足らずですから、過労自死や過労死の労災認定は氷山の一角でしかありません。

 過労死防止法ができ、過労死をめぐる関心や世論は広がっていますが、過労死が減っているわけではなく、救済の面でもまだまだ遅れた現状があります。家族の会として、労災申請の相談に応じていますが、新入社員にベテランと同じような責任の重い仕事を命じるハラスメントも多いです。ダブルワークのように複数の職場で働く場合、労働時間が合算して認められない、低年金のため働かざるを得ない高齢者に通常の労働者と同じ労働時間規制をあてはめるなど、精神的緊張やストレスへの評価、時間外労働の過少申告などを改めないと、泣き寝入りする状況は変わりません。労働時間の適正把握を徹底することで申請をしやすくすること、労災認定基準の改定が課題だと考えています。

 過労死弁護団は、厚生労働省に「脳・心臓疾患、精神障害・自殺の労災認定基準の改定を求める意見書」を提出しています。脳・心臓疾患の認定基準は2001年、精神障害・自殺の認定基準は11年に改定されたきりで、過労死防止法が出来る以前のままなので、今日の実態にあった形での認定基準に変えるよう求めています。

 政府は、“多様で柔軟な働き方”などの実現といって、「働き方改革」関連法を成立させましたが、被災者の救済や補償は何ら変わってもいないし考えてもいません。救済制度の整備もなく「高プロ制度」を創設したのは本末転倒です。そもそも、過労死を心配するような働き方はあってはならないわけで、家族を過労死で失った私たちは、法案に反対したんです。

 関連法で、時間外労働の上限とされた、複数月で平均80時間、最大100時間未満という内容は、過労死ラインだということを認識してほしいです。残業ありきで働かせ、しかも長時間残業を法律で合法化する働き方を「改革」と名付けることに違和感があります。労働時間を規制し、睡眠と自由に使える時間の保障があって、ふつうに生活できる働き方を考えるのが、本当の「働き方改革」だと思います。

 過労死のない社会、健康で働き続けることのできる社会をご一緒にめざしましょう。