渡辺智史監督

 国際映画祭が開催されるなどドキュメンタリー映画のメッカ山形県の出身で、同地に製作・配給会社を構える気鋭の渡辺智史監督(38)に、山形の伝説のバーテンダーの人生に迫った最新作『YUKIGUNI』(2018年)、小規模再生可能エネルギーに取り組む人々を取材した『おだやかな革命』(17年)の両作に込めた思いを聞きました。

プライドある老いを見つめ

 『YUKIGUNI』は、グラスの縁に雪の結晶の様な砂糖をあしらい、グラスの底に緑のミント・チェリーを沈めたカクテル「雪国」を創作し、サントリーの前身・寿屋主催の第1回カクテルコンクール(1959年)で優勝した井山計一さん(93)や、井山さんの経営する喫茶兼バー「ケルン」(山形県酒田市)の魅力に迫っています。

 バーテンダーの見習いをしているうちのスタッフから、一杯のカクテルを求めて中国地方や大阪からファンが訪れる有名なバーが身近にあると教えられ、興味を持ちました。

 様々な仕事を経験してきた井山さんと話をしていると心地良い、人をひきつけて止まないものがあります。

 企業の利益追求が最優先される社会の中で、一人ひとりの尊さが軽んじられ、孤独が病理のように心を蝕んでいます。職場にも家族にも話せない話がバーなら出来る、肩の荷を下ろせる。こんな場所が今、求められているのではないでしょうか。

 映画が完成し、「伝説のバーテンダーが93歳でも現役で仕事をしているの」と驚きの声が上がっています。人と話し、人に求められることが井山さんを元気にしている。どうプライドを持って生き続けられるか、老いのあり方を考えさせられました。

社会の変化を地域から創る

 『おだやかな革命』は、小規模再生可能エネルギーによる地域活性化の実践を、福島、秋田、岐阜、岡山で取材しカメラに収めた作品です。地域活性化に向け上映会が取り組まれるなど、作品が新たな変化を起こしています。

 資本のある人が再生可能エネルギーに取り組むと、自然を破壊し、地域に利害関係を持ち込み、コミュニティーを壊してしまう。原発と同じで、人々は幸せになれません。

 グローバル経済とかスケールの大きな話からは無力感しか生まれず、矛盾は解決しませんが、自力で身の回りのことからやっていくと意外と解決できることを示したかった。

 うちは小さな映画会社で、お客さんの顔が見え、ニーズもわかります。数人でも自分たちで流通のしくみを作ることでなんとか製作・配給が出来ています。エネルギーでも顔の見える関係の中で売り買いすれば、全体の仕組を変えなくても、地域経済を良くしていくことは出来ると思います。地域社会を変えていく希望はあるということです。

 お金を持っている一部の人がトップダウンで進めるのではなく、地域の人々がみんなで話し合うボトムアップ方式で変化を作り出せる。小規模でローテクだから全体がわかり、やりがい、プライドも見えてくると思います。

 わたなべ・さとし 山形県鶴岡市生まれ。東北芸術工科大学卒業後、上京し、ドキュメンタリー映画製作に従事。『よみがえりのレシピ』(2012年)は、香港とハワイの国際映画祭に招待。映画製作・配給会社「有限責任事業組合いでは堂」共同代表。

 『おだやかな革命』 1000カ所を越えて上映中。上映の申し込みは映画ホームページより。

『YUKIGUNI』 「ケルン」で今もカウンターに立つ井山さん ©いでは堂
『おだやかな革命』 岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区での小水力発電設置風景 ©いでは堂