京都市の方針撤回を求めて宣伝する「市民の会」のメンバー(2月5日、京都市役所前)

嘱託員130人雇い止めありき

 京都市が、2020年度から実施を予定する介護保険の認定及び給付業務を集約化・民間へ委託する方針を巡り、20ある政令指定都市で認定・給付の両業務を集約化・委託するのは京都市だけで、政令市の中で突出していることが分かりました。市は、同方針で担当嘱託職員130人を雇い止めする計画で、「人員削減」ありきの姿勢が浮き彫りになっています。

 各政令市の状況は本紙の聞き取り調査で分かりました。

 介護認定は、その結果によって介護サービスの上限が決まるもので、制度の根幹を成すもの。給付業務は、住宅改修費や福祉用具購入費を補助するもので、これも利用者にとって大事なものです。札幌市をはじめ13市(表参照)では、公的責任を果たすために認定・給付いずれの業務も集約化や委託を行っていません。現時点では、13市全て、今後も集約化・委託する計画はないと言います。

 一方、集約化・委託をしているのは相模原、名古屋、大阪、神戸、北九州、福岡の6市で、対象は認定業務だけです。6市いずれも、現時点では給付業務にまで対象を拡大する計画はないと言います。13市のうち広島市では、19年度から認定業務の集約化・委託をいったん計画していました。ところが、受託した事業者が新たに有資格者を雇用する必要があり、委託化で年間3600万円の経費増となることが判明。1月、計画中止を発表しました。

 千葉市の担当者は「市内部では委託などを検討はしている」と言います。「しかし、それは申請者数の増加で、認定通知までの日数が長期化していることから、事務効率化の一つの方策として検討しているもの。給付はそうした状況にはないので検討の対象外」と説明します。

 京都市が突出して業務を集約化・委託を進める理由の一つが、人員削減です。門川市政は10年間で、職員を3500人削減し、市の基本計画・「京プラン後期実施計画」(16~20年)では、新たに800人、中でも市民生活に密接な民生部門の職員を220人削減する計画です。今回の方針は、その具体化となっています。

小川栄二さん

■行政サービスを企業のもうけの場に/立命館大学特任教授(高齢者在宅福祉)・小川栄二さん

 京都市が政令市の中でも突出した方針を打ち出した背景などについて、小川栄二・立命館大学特任教授(高齢者在宅福祉)に聞きました。

 安倍政権は行政サービスを企業のもうけの場にするため、自治体業務を「集約化」し、軒並み民間企業に開放させようとしています。市の突出した方針の背景には、国のこの流れがあるでしょう。

 認定・給付業務を委託することが、どこまで市の経費削減につながるかは別にしてでも、市は企業を参入させる。それは、介護保険制度の運営責任を民間企業に丸投げするだけでなく、介護保険運営のノウハウと住民情報を民間に明け渡すことになります。企業にとっては大きなメリットです。その一方で、行政の力量は、低下することになるでしょう。

身近な区役所の機能役割の後退

 市の方針は、雇い止めによる市の雇用主としての責任放棄であり、介護保険に与える問題と影響は本当に大きい。既に、1月10日に発表された市職労などの声明(1月20日付既報)で指摘されている通りです。とりわけ、正確な認定調査や判定業務での公的責任の後退が危惧されます。

 加えて、今回の方針は行政の重要な役割・機能そのものを後退させることにつながります。市民に身近な区役所は、住民の生活問題解決のより所でなければなりません。集約化・委託後も、区役所には介護保険の相談窓口は残りますが、それは形ばかりです。ところが、高齢者は老老介護であったり、近隣から孤立しているケース、貧困に苦しんでいるなど、複雑な問題を抱える事例が少数ではなくなっています。福祉行政の窓口で見い出された高齢者のさまざまな問題に、他の福祉制度の活用を進めるなど総合的な支援、援助ができるのは行政です。その窓口が住民から遠ざかってしまいます。

 いくつもの問題を抱える今回の方針は、撤回しかないと考えます。