ヘクソカズラ 京都市内などの公園や空き地などのあちらこちらのフェンスや木々に絡んでいるヘクソカズラの花が咲いています(写真は京大病院分子生物科学研究棟前の植え込み)。
 しゃれた赤色の中心部とそのまわりに真っ白な5片の花のヘクソカズラですが、カズラの前にへとクソを付けられて屁糞葛というかわいそうで気の毒な名前です。花は可憐ですが花も実も茎も全体のにおいが激烈な悪臭なんです。ですから、ヘクソカズラ(アカネ科ヘクソカズラ属:Paederia scandens var. mairei:属名のPaederiaも悪臭という意味)は万葉集時代には、「皀莢(さうけふ)に延(は)ひおほとれる屎葛(クソカズラ)絶ゆることなく宮仕(みやつか)へせむ」(岩波書店刊『新日本文学大系』第4巻より)〔皀莢の木〈マメ科の落葉高・サイカチ〉にからみついて広がっていく屎葛のように絶えることなく、いつまでも宮仕えしよう〕(東方出版刊『やまと花万葉』より)のようにまだクソカズラでしたが江戸期にはヘまでプラスされて最悪の名前に。しかし、別名、花の様子からヤイトバナ(灸花)やいつの時代か高貴な女性がサオトメバナ(早乙女花)とも名付けたとも伝えます。
 ところで、嫌な臭いがする草には人参の葉っぱによく似たクソニンジンがありますが、逆にニオイタチツボスミレ(匂立壺菫)やユウガギク(柚香菊)、ジャコウソウ(麝香草)などいい香りの名前も。花をめぐる写真やエッセイを執筆しているかわしまよう子著『道ばたに咲く』には、ヘクソカズラの果実を一杯摘んでビニール袋に入れて電車に乗り、強烈な匂いが漏れて赤面を隠すようにずっと下を向いていたとか。このように嫌な匂いで名前もヘクソカズラを付けられていますが、つぶらで可愛い花ですから草木に関する多くの本に顔をだしています。8月いっぱいまで咲いていますので、道ばたで見つけたらそっと愛でてやってください。(仲野良典)