世界文化遺産に登録されている日本伝統の舞台芸術、「文楽」。この世界に類を見ない高度な音楽性と戯曲性を併せ持つ人形芝居に魅了されたカナダ人映画監督のマーティ・グロス氏(62)が30年前に撮影した映画「文楽 冥途の飛脚」が2012年1月14、15の両日、京都府立文化芸術会館(京都市上京区)で京都初公開されます。
 「冥途の飛脚」は、日本文化を学ぼうと来日していたグロス氏が文楽公演に通い詰める中で、その魅力を海外に広めたいと1979年に製作したもの。当時国内では完成披露試写会が行われただけで、一般公開されなかった“幻の文楽映画”です。
 太秦撮影所に本格的な舞台セットを作り上げ、後に人間国宝となる故・竹本越路大夫や人形遣いの吉田玉男のほか、竹本文字大夫(現・住大夫)、三味線の五世鶴澤燕三、四世野澤錦糸、人形の二世桐竹勘十郎などの名人が勢ぞろいで出演して撮影されました。カメラ、音響・音楽をそれぞれ日本を代表する、撮影監督・岡崎宏三(故人)、作曲家・武満徹(故人)が担当しました。今回新たにデジタルリマスターされ、日本語字幕付きで上映されます。
 「冥途の飛脚」は、飛脚問屋の養子・忠兵衛が恋仲の遊女・梅川の身請けのために公金を横領して逃亡する、近松門左衛門作の悲恋物語。上中下3巻の世話物ですが、映画では上下2巻を近松原作、下巻を後世の改作「恋飛脚大和往来」に拠って約1時間半に凝縮して編集しています。文楽の魅力に正面から挑み、貴重な文化遺産とも言える傑作映画が33年の時を経て、撮影の地・京都でよみがえります。(「週刊しんぶん京都民報」2011年12月18日付掲載)

 上映時間は両日とも14時。2300円(前売り2000円)。全席自由。問い合わせTEL075・256・1707(京都映画センター)。