「日本にある原発54基。全部なくさなあかん」─原発問題について訴えているミュージシャンの中川敬さん。阪神・淡路大震災や沖縄米軍基地問題、反戦など社会問題を取り上げてきたバンド「ソウル・フラワー・ユニオン」のボーカルです。原発ゼロをめざす「京都アピール」にも賛同のメッセージを寄せています。原発問題について思いを聞きました。

 ─ツイッターなどで積極的に情報発信されていますね
 国や東京電力は、原発事故・放射能被害の実態を隠して、できるだけ汚染状況を小さく見積もろうとしてる。全国区マスコミはそれをそのまま発表するだけ。今はネットで、研究者やフリー・ジャーナリストが苛酷な状況をそれぞれに訴えてるから、そうした情報を少しでも多くの人に知ってほしいと思ってる。
 ─原発問題を以前から訴えられてきました
 チェルノブイリ原発事故後、いろんなイベントをやった。俺らの演奏とセットで、反原発の研究者の講演会をやるとか。俺にとって、原発と人間の共存が不可能であることなんて、あまりに当たり前のこと。俺の周囲は反原発が当たり前過ぎて、逆に近年大きく声をあげていなかったかもしれない。次世代のために、もっと俺らが声を上げ続けなあかんかったんやね。
 ─実際に原発事故が起こり、広大な地域に放射能汚染が広がりました。今、感じることは?
 福島に行って、現地の人の話を聞いたり、ガイガーカウンターで放射線量を測ったりしてきた。今の福島は、チェルノブイリの基準に当てはめると、場所によっては子どもたちが住み続けれる状況ではない。でも国は、被ばくの基準値を引き上げるだけで、除染であたかも収束に向かえるかのような態度。知り合いもいるけど、補償も無く、現地で仕事や生活があるから外に逃げられない。生活を放って、簡単に「逃げろ」とも言えないし、ほんと、暗澹たる気分になる。
 ─福島だけでなく東北の被災地をライブなどでまわられてどうでしたか?
 物資支援や、福島、宮城、岩手の避難所や仮設住宅で今まで20回ほどライブをやってきた。被災した人の気持ちに出来る限り寄り添って演奏したいね。今回の新作にも入ってるけど、東北の民謡や地域に馴染みのある流行り唄を演奏したら、「被災してから初めて泣けた」「音楽っていいね」って泣きながら言ってくれる人もたくさんいて、音楽の力を改めて感じてるよ。
 ─京都の方へメッセージを
 俺も大阪に住んでるので、若狭湾に林立する原発はまったく人ごとじゃない。よく4歳の息子と滋賀県北部に遊びに行くんやけど、スマートフォンの地図でみたら、ほんと「原発は目の前やなあ…」と思うね。琵琶湖が汚染したら、近畿圏は終わり。とにかく今の大人たちがやるべきなのは、日本全国にある54基の原発をすべて止めること。まず廃炉にすると決める。そこからが長いんやから。そのためには、党派もイデオロギーも飛び越えて、これまで中々一緒に手を組めなかった人らもみんなが力あわせていかなあかんよね。(「週刊しんぶん京都民報」2011年12月25日付掲載)
SOUL FLOWER UNION

 なかがわ・たかし 1966年。兵庫県西宮市生まれ。1993年に「ソウル・フラワー・ユニオン」を結成。ロック、ソウル、ジャズ、民謡、大衆歌謡などの音楽を交えた楽曲を発表し、全国でライブ活動を展開。95年の阪神・淡路大震災時は「ソウルフラワー・モノノケ・サミット」名で慰問ライブを実施し、その後も沖縄米軍基地問題や反戦をテーマするなど社会問題を取り上げた音楽活動を行っています。3月11日の震災後は、「ソウルフラワー震災基金2011」を立ち上げ、被災地で支援とライブなどを実施しています。