湯浅誠氏の講演(7)
 3つ目は、犯罪です。これも2、3週間前に報道がありましたけど、刃渡り16センチの包丁を持った青年が「強盗やろうと思ったけど、怖くてやめた。捕まえてくれ」と自分で警察に電話をかけてきて、捕まったんです。彼は、強盗でもすれば、刑務所に入って食えると思ったという風に語っている。以前からそういう犯罪は結構ありました。147円のショートケーキを盗んで逃げないでその場に立っていたとか、自転車1台盗んでそのまま交番に乗りつけたとか。高齢者の犯罪が増えていて、高齢人口はこの20年で2倍になっていますが、高齢者の犯罪は5倍になっています。
 でも多くの人は自殺もできないし、犯罪にも走りません。基本的に貧困状態に陥っちゃう人って、真面目で不器用な人が多いです。私の経験上、本当にずる賢い人は貧困にならないですよ(笑い)。なので、真面目でちょっと世渡りうまくいかないなって人の方が落ちやすいので、そう簡単に犯罪はしない、自殺もそう簡単にできるものじゃない。なので、多くの人は、そのまま野宿、ホームレス状態になってしまう。これが4つ目です。
 最後のもう1つは、「『ノー』と言えない労働者になる」って私は言っています。これは結構重要だと思っています。手前の4つも重要ですが。
 例えば「派遣村」に来た人が典型です。住居もない、お金もない、家族にも頼れない、公的なセーフティーネットも効かない状態で、「死に物狂いになれば仕事はないわけじゃないからがんばれ」と言われて放って置かれると、どういう仕事にアクセスできるかということです。月給仕事はそもそもアクセスしようがない。だって最初の給料が入るまで生活がもたないんですから、ハローワークにいっても意味がないということです。そうすると、アルバイトニュースの雑誌とか、一番多いのはスポーツ新聞の求人欄をみる。つまり寮があることが重要な条件になってくるんです。その後は、働いてその日に給料をもらえないと食えないわけですから、日払いかどうかということになる。でも、一般的に寮つき日払いの仕事は、労働条件が良くない仕事だということですね。今日参加のみなさんは、寮つき日払いの仕事探しましたか。たぶん探してないと思います。
 普通は、通える仕事、社会保険、雇用保険がついている仕事、時給のいい仕事、自分がやったことのある職種かどうか、会社は信用できそうかとか、そういった風に仕事を探します。だけど貧困状態になると、どんな労働条件でものまなくてはいけない、「ノー」と言えないという人にならざるを得なくなる。そうすると何が起こるかというと、「ノー」と言えない人たちが労働市場に増えていきますので、雇う側は当然ですけど、労働市場を切り縮めていくわけです。「あんた日給7000円も8000円もなきゃいやだっていうんだったら、別にいいよ来なくて。だって6000円でも5000円でもいくらでも働く人はいるんだから」ということになっていけば賃金は、どんどん下がっていく。社会保険、雇用保険をつけなくてもいくらでも人は来るんだということになるんですね。(つづく)