湯浅誠氏の講演(8)
 何が言いたいかというと、「ノー」と言えない労働者が増えていくというのは、労働市場が壊れていくということです。本人はただ生きていきたいだけですが、結果的にそういうふうに活用されてしまう、役割を担わされてしまうんです。貧困が増えてきたのは労働市場が壊れた結果であるというのが片面、もう片面は、貧困が増えるということは労働市場を壊す原因でもあるということ。これは循環していて、私は「貧困スパイラル」と言っています。労働市場が壊れる、貧困が増える、「ノー」と言えない労働者が増える、労働市場が壊れる、貧困が増える、さらに「ノー」と言えない労働者が増えるっていう風な循環をたどっていきます。
 日本がこの十数年間経験してきたのは、結局この「貧困スパイラル」をセオリー通りにたどってきたってことじゃないかと思っています。90年代の前半に、フリーターだと言われていた人たちが、今そのままワーキングプアと呼ばれている。そうして、今ワーキングプアのあの人たちがあんなにがんばって働いても食べていけないかわいそうな状態にあるのは、正社員や公務員が既得権利にあぐらをかいているからだという話になっていますね。こんなに守られている人はいない、こんなにいい思いしている人たちはいないと言われて、公務員は変わっていないのに。けれど周りがドーンと地盤沈下しちゃったので、ものすごく浮かび上がって見えるわけです。それで、公務員の非正規化が進んでいるわけです。地方公務員は3割が非正規、学校の先生にもなんとか相談員、なんとか支援員みたいな形でどんどん非正規の人が入っていますね。こういう状態になっていくのは、今までずっとそういう貧困状態を自己責任だといって放って置いたからです。これのまったく裏返しにあるのが自衛隊です。自衛隊は逆に周りが地盤沈下すればするほど、優良就職先ということになり、食えなかったらどうぞという話になるわけです。野宿している人の中に自衛隊経験者は多いですね。それはやっぱり食えなかったからで、自衛隊が好きだったからとは限らないんです。
 この問題はみんなつながっているわけなんです。自分たちの処遇が悪くなって、労働条件がきつくなっていくことと、貧困の広がりはセットで起こっているわけです。ですから、みなさんの職場も大変だと思いますが、その大変さと貧困の広がりはまさにセットで起こっているんです。その全体が「貧困スパイラル」ということになるわけです。これをどういうふうに見るかというと、また個別具体的なことに例えるとこういう話になります。(つづく)