京都 町家の草木

泰山木

泰山木
タイサンボク【モクレン科モクレン属】
一名「白蓮木(はくれんぼく)」
 この時期に甘酸っぱく強い香りを漂わせるのは泰山木の花。この木は両親の結婚記念樹として母屋にほど近い場所に植えられた。
 開花一日目は、口すぼまりにふっくらとした形を保つが、二日目はみるみる花びらを解き、大胆に開ききった「あられもない姿」のまま三日目をむかえる。ちりれんげにも似た大きくて肉厚な象牙色の花びらは、その窪みにぱらりと落ちたマッチ棒のような雄蘂を無数にためて、茶色に変色する。
 そして、花の中央に炎を灯した蝋燭の様な形の雄蘂を残して散る。地面には茶褐色に変色した花びらと雌蘂が、ただ、ばらばらと散らばっている。
六月は曾祖母と祖母を想い出す祥月。必ずこの花が母の手で生けられる。
 幼い蕾はしっかりとした萼に包まれていて、その萼に添って長い毛が生えている。それは薄緑がかった銀色の艶があり、蕾が膨らむと先に脱ぎ捨てられてしまう。手に取ると何とも魅力的な手触り。「自然の創造には命の必然がある」。この美しい萼を手にして、その毛並みを撫でながらいつも感心する。
 大きくて堅い葉を持つ泰山木は、初夏に葉を落とす。風が吹くと大袈裟にバラバラと乾いた音を立てて散り広がってしまう。ワックスでも念入りに掛けたようなつるつるの葉の表面は、縁のところで裏側にまわるように丸みをおびているので、箒で掃き集めようにも引っ掛かり悪くてしようがない。葉の裏は黄土色の短い毛が生えていて、さながらビロードのような手触りでいながら箒との相性はいいとは言えず、毎朝のお掃除泣かせの木。この葉は油分を含んでいるのか、燃やすとぱちぱちと爆ぜる音を立てて良く燃える。
 今は、落ち葉焚き厳禁。ひとつの香りの景色を失った。
2009年6月13日 10:00 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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