京都 町家の草木

夏みかん

夏みかん
ナツミカン【ミカン科ミカン属】
 細くすこし長い首をもつ白い蕾。新緑の間に見え隠れするその様は、乙女の白い胸元にこぼれる真珠の粒のように清楚な露をふるわせる。
 開花すれば、その香りほのかに甘く漂い、辺りを魅了する。
初夏に古い葉を落とす夏みかんは、つやつやとした新緑に身をやつす頃に白い花をつける。花びらは散らずにそのまま枯れ縮んでゆき、雄蘂の根元に残された小さな青い結実は、ひと夏かけてゆっくりと大きくなる。
 師走の頃、次第に黄味をおびて重たくなる実は、重力のまま真っ直ぐに枝を地面へ引っ張ってぶら下がりはじめる。冬枯れの寂しい庭に、朝日をあびて照る実の金色を寝床から眺める。まだ覚めきらないぼんやりとした瞳は、遠くエルドラドを見る。
 大きな実の収穫は冬。手のひらに載せるとたっぷりと座を占める。
 皮も果肉も一つまるまる使って作る自家製マーマレード。それから、果汁を絞った残りで作る皮の砂糖煮は、細かく刻んでパウンドケーキに。
 「美味しいなあ」と食べてくれる家族は舌鼓。
2009年6月 6日 10:00 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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