京都 町家の草木

梔子

梔子
クチナシ【アカネ科クチナシ属】

 苔むした座敷庭。大きなモッコクの樹の下にこんもりと丸みをおびて形を整えられた梔子がある。この庭で代々大切にされている一重の花は、日本古来の原種らしいことを聞かせてくれた人がいた。
 近頃は街路樹にもよく見かける梔子だけれど、大抵は園芸種で八重の花が厚ぼったく咲いている。こうしたクチナシは強く甘い香をやたら拡散し、鼻の奥にまといつく。一重の花の香りは気持ちに深くまとう感じ。
梔子の実は形と色がまた好ましい。この実を水に漬け、後に煮やして取り出す色素は古来より染色に用いられてきた。栗を甘く煮るときに梔子の実を入れると黄金色に美しく炊きあがることでも知られている。
 梔子は、白い花の清楚な美しさ、遠い思いを近づける香り、個性ある実の形状と色、暮らしの実用性を兼ね備えている。
 そういえば、お料理の好きだった祖母は、この実を網にいれて軒先に吊し、保存用に採っていたことなどが思い出される。
 ふと、あの実の朱色が記憶の暗闇に浮かぶことがある。
2009年6月20日 10:00 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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