昨年行われた京都府の訓練で、車両の検査・除染を行う自衛隊員。全身は防護服で覆われておらず、不織布マスクをつけていました
池田豊さん

内容・装備が急速に簡易・省略化、住民の被ばく回避が努力目標に

 原発の過酷事故を想定した住民避難計画をめぐり、2022年度の京都府原子力防災訓練(住民避難訓練)を調査した京都自治体問題研究所・原子力災害研究会代表の池田豊さんに、調査を通じて考えた住民避難の課題や懸念について聞きました。

住民の除染訓練行わず

 府原子力防災訓練は毎年行われており、今年度は昨年11月27日に与謝野町内の2カ所を中心に実施されました。大江山運動公園ではバスなど避難車両の放射能検査や簡易除染の訓練が実施されました。訓練前日から委託業者による高圧水除染装置の組み立てや多くの資材搬入が行なわれ、これではいつ何時起こるか分からない原発事故の対応ができないことは明らかです。

 また、今年度の訓練は、一部を除き、避難住民の除染訓練を行っていませんでした。16年度の訓練では、短時間で設置できる住民用除染テントが3棟並んで訓練(綾部市の会場)していました。また、同年度には10分足らずで設置できる高圧水除染装置を使い、除染にあたる自衛隊の特殊武器防護隊員は防護服で全身を覆い特殊な防護マスクを装着していました。今回の訓練ではヘルメットに防護服、不織布マスクという簡易なものでした。

国「対策指針」が大幅後退

 この間避難訓練の実施内容や装備等は急速に簡易・省略化しています。背景には、原発事故時の住民の放射線防護について定めた「原子力災害対策指針」の大きな後退があります。

 18年7月に「対策指針」を「改定」し、被ばくによる確定的影響を「回避する」から「回避または最小化」に、確率的影響・リスクを「最小限に抑える」から「低減する」と変更し、住民の被ばく回避を単なる努力目標にしました。

訓練資機材の交付金を廃止

 そのため実効性より「実施可能な避難および避難計画」であれば良いということになり、検査・除染体制の簡易化につながっています。

 その具体化として自治体に対し政府は、21年度から検査要員(自治体職員ら)の防護服、高圧・流水の洗浄機材、車両と住民用のゲート型測定機器の交付金の廃止を通知しました。

 今回の府の訓練では、防護服や除染機材はまだ使われていましたが、今後は分かりません。同時期に実施され調査に入った福井県の訓練(昨年11月)では、検査・除染にあたる職員は薄手のエプロン形式のものを着用しただけで防護服は着ていませんでした。府のような高圧水除染機材もなく、国の指針をそのまま実践していました。

 これら交付金の廃止の根拠になった委託研究の報告書では、線量計も必要な個数が確保できなければ、作業グループ内で最も被ばくしそうな人だけが持てばいいとしており、さらに重大な後退の可能性があります。

 実効性のある避難計画とその実施は、住民の命と安全を守る上で極めて重要です。これが担保されていないもと、まずは運転中の原発を停止、危険性を増やすだけの再稼働は中止し、全原発を廃炉にすることが求められます。

 ただし、停止・廃炉になったとしても大量の使用済み核燃料がある限り、住民は大事故の危険性と隣り合わせの現実から逃れることはできません。

 自治体には住民の命、安全、財産を守る責務があります。国の責任を問うと同時に、実効性のある避難計画とその実施をどうすれば実現できるか、このことに正面から向き合い真剣に検討する必要があります。

 真剣に向き合っていれば、府知事や関係市町の首長から福井県の原発再稼働に関し、「国の責任で」などという答弁は出てこないはずです。

福井県の訓練(2022年)では、エプロンのような簡易な装備で検査・除染にあたっていました