広原さん

 京都市は4月19日、世界文化遺産・仁和寺(右京区)の門前の大規模ホテル計画(*)を「上質宿泊施設誘致制度」に基づき、上質宿泊施設候補として選定しました。計画に対して、多くの市民の反対意見があるだけでなく、新型コロナの感染拡大でインバウンドが激減するなど、ホテル業界にとっては逆風の中、市はなぜ大規模ホテル計画を推し進めようとするのか、その背景や狙いについて元府立大学学長の広原盛明さんに聞きました。

国の観光政策の「直轄都市」

  ――市はなぜ、この時期に仁和寺門前のホテル計画を推進しようとしているのでしょうか

 背景にあるのは、国のインバウンド優先の観光政策です。京都市は国の観光政策の「直轄都市」ですから。

 国の観光政策が新型コロナの感染拡大で完全に行き詰まるなか、菅政権はどこに活路を見いだそうとしているのでしょうか。菅首相のブレーンであるアトキンソン氏は、昨年6月の国の観光戦略実行推進会議の中で、「コロナ後の観光戦略」として、活路は「富裕層観光」にあると主張しています。京都市の「京都観光振興計画2025」策定のための審議会(2020年8月~21年3月)においても、同様の意見を述べています。彼は、国と京都市を結ぶキーパーソンなのです。

 アトキンソン氏の主張はそれにとどまりません。氏は、観光を基幹産業にしなければならないと言います。それを真に受けたのが京都市です。

世界遺産・仁和寺の門前のホテル予定地

  ――インバウンド観光、富裕層観光は京都に何をもたらしてきたのでしょうか

 もともと、京都市は観光都市ですが、地域経済は先端産業から伝統産業までバランスのとれた産業構造のもとで発展してきました。それが、長引く不況の下で観光業に傾斜した結果、いびつな産業構造になってきました。

インバウンド依存で経済大打撃

 都道府県別の地域経済に占めるインバウンド依存度で、京都府は沖縄県に次いで全国第2位(みずほ総合研究所のリポート「インバウンド蒸発による悪影響の総括的検証」20年10月)となり、いま大打撃を受けています。

 ところが、門川市政には、観光、なかでもインバウンドに傾斜したことで地域経済が深刻な影響を受けていることに、反省がまったくありません。門川市長は19年11月、形式的な「ホテルお断り宣言」をしましたが、「富裕層向けホテル」は別などと詭弁を弄するありさまです。それが、今回の仁和寺門前ホテル計画の「上質宿泊施設」候補の選定です。

門川市長の案内で二条城を視察する菅官房長官(当時)=2019年6月(門川大作氏のホームページより)

  ――このままでは、京都のまちはどうなるのでしょうか

 京都の街中は「民泊」廃業にともなう「ゴーストタウン」化と、富裕層ホテルによる「景観破壊」が進むだけです。しかも、仁和寺前の「上質宿泊施設」を推進する中心人物が、地元金融機関の元トップだということも深刻です。京都のまちづくりに一番貢献しなければならない地元金融機関が、京都でもうけるだけのあくどい外部資本に加担する――。こんなことを許してはいけません。

 その社会的責任を問うためにも、預金者は(私も含めて)いま然るべき行動を取るべきでしょう。

 *仁和寺門前ホテルは、共立メンテナンス(本社東京都)が進める計画。市の「上質宿泊施設誘致制度」の適用を受け、宿泊施設は、のべ床面積3000平方㍍までしか建てられない地域に、約5800平方㍍の大規模ホテルを予定。