様々な角度から見られる展示室

 祇園で約300年続く京菓子店で、民藝運動を展開した河井寬次郎や黒田辰秋をはじめ多くの文化人との交流で知られる「鍵善良房(かぎぜんよしふさ)」(十五代当主・今西善也)が1月8日、東山区祇園町南側に美術館「ZENBI─鍵善良房─KAGIZEN ART MUSEUM」(館長・今西善也)をオープン。開館記念として木漆工芸作家で人間国宝の黒田辰秋の同店所蔵品による特別展「黒田辰秋と鍵善良房─結ばれた美への約束」を開催中(6月27日まで)です。

 美術館は、先代の和夫さんが若い作家や作家志望の学生たちの作品展示会場としていたギャラリー「空・鍵屋」の跡地に建てられました。

 京町家の意匠を用いた外観で、向かい側は当代が、コーヒーなどにも合う和菓子を模索するために2012年に建てた「ZEN CAFE(ゼンカフェ)」もあり、おしゃれな空間を創出しています。

 同店と黒田辰秋らとの交流が始まったのは昭和初期、十二代当主・善造のとき。ドイツ製のカメラ「ライカ」を入手して写真を撮影し、ホルンやコントラバスを演奏するなど多趣味で進取の気風にあふれた人物でした。柳宗悦(むねよし)や河井寬次郎らの民藝運動に共鳴し、1931年、本店の大飾棚の制作を依頼したことを皮切りに、ショーウインドーの飾板や、同店の代名詞ともなった「くずきり」などの器の制作を依頼し、親交を深めていきました。

 一方、黒田辰秋(1904─82)は、祇園の塗師職人の家に生まれました。分業体制に疑問を持ち、漆塗り、装飾の仕上げまで一人で一貫して制作するスタイルを確立。河井寬次郎の作品に感銘し、柳らの期待を受けて、民藝運動の一翼を担いました。

「赤漆流稜文飾手筐」(あかうるしりゅうりょうもんかざりてばこ)

 鍵善良房のほか、続木斉(ひとし)創業のベーカリーショップ進々堂の店舗、関西の実業家・加賀正太郎の別邸大山崎山荘(現・アサヒビール大山崎山荘美術館)、関西の実業家・山本為三郎の自邸「三國荘」の家具などを手掛け、“王様の椅子”と称された黒澤明監督の椅子を作ったことは有名。木工芸分野で初めて人間国宝に認定されました。

 特別展では、螺旋(らせん)の流稜文を用いたデザインで、色気のある赤漆を用いた香合や手筐(てばこ)、かつて実際にくずきり用器として使われた螺鈿(らでん)を配した岡持ち、外は漆黒で内面に紺碧の光沢をおびたメキシコアワビの螺鈿を惜しげもなくほどこした水指(みずさし)、入手が極めて困難な蔦(つた)材を用いた茶入れ、余技として制作された紅白の楽茶碗、十二代当主の他界と戦争により13年間休んでいた店の再開を祝って贈られた民藝の同志・河井寬次郎、浜田庄司、黒田辰秋、縁者らによる寄せ書き「喜者開扉」など約40点が展示されています。

今西館長

 染色家の吉岡幸雄(さちお・故人)との親交があった今西館長は「うちに作品が多くある黒田さんのことを多くの人に知ってほしいと美術館を立ち上げることにしました。相談に乗ってもらっていた吉岡さんとの約束が果たせました。祇園や店を支えてくださった様々な方々との交流の歴史も知ってもらい、新たな交流の場にもなれば」と話しています。

 午前10時~午後6時(入館午後5時半まで)。月曜休館(休日の場合、翌平日)。一般1000円、大高中生700円、小学生以下無料。☎075・561・2875(同館)。同館のホームページ(https://zenbi.kagizen.com/