『息子』(2005年撮影)
『茶壺』(2010年撮影)

『茶壺』熊鷹太郎役で出演・中嶋宏太郎さんに聞く

 恒例の前進座初春特別公演が来年1月9日から15日まで京都四條・南座(京都市東山区)で行われます。歌舞伎『息子』と、狂言舞踊『茶壺』の二本立て。『茶壺』に出演する中嶋宏太郎さんに作品の魅力や自らの歩みについて聞きました。

 『息子』は、劇作家で演出家でもある小山内薫が100年前、英国劇を、舞台を幕末の江戸に移して翻案した作品です。降りしきる雪の中、火の番小屋で老翁(藤川矢之輔)がたたずんでいると、罪人をめしとる役人・捕吏(ほり)(藤井偉策、新村宗二郎Wキャスト)が老翁(おきな)をからかって去り、金次郎(忠村臣弥、玉浦有之祐Wキャスト)が現れます。老翁は暖をとるよう勧めます。年格好は出ていった息子と似ていますが、素性は良くなさそう。互いの胸の内を探り合ううち、心あたりのある事実がぽつり、ぽつり…。打ち解け始めたところで再び捕吏が登場し、金次郎が逃げます。

シンプルな演出斬新と話題呼ぶ

 会話の中で両者の微妙な心のゆれが垣間見られる新劇っぽい作品です。歌舞伎は豪華な舞台が魅力ですが、この作品は、火の番小屋の囲炉裏(いろり)のセットだけで、背景はホリゾントのみ。

 初演は1923年。金次郎を六代目尾上菊五郎、老翁を四代目尾上松助、捕吏を十三代目守田勘弥が演じました。シンプルな演出が当時は斬新で話題を呼んだそうです。今回は、作品を刷新するべく、音響をしてきた川名あきが演出に挑みます。

 『茶壺』は、茶壺を持っていた田舎者の麻估六(まごろく)(嵐芳三郎)が酔っ払って寝てしまい、盗人の熊鷹太郎が「茶壺は俺のもの」と言い張るという極めて単純な話です。

 もめ事を解決する役人・目代(早瀬栄之丞、渡会元之)が駆け付け茶について質問しますが、熊鷹は麻估六の答えを盗み聞きして回答。茶のいわれを舞うよう命じると、熊鷹が盗み見し、真似(まね)する始末。半間ずつずれて踊るところが見どころです。

 『息子』では人情劇をじっくりと味わっていただき、『茶壺』では狂言舞踊のアンサンブルを楽しんで、明るい気持ちで帰っていただければと思います。

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公演の魅力を語る中嶋さん
三味線の音聞き登下校

 出身はあわら温泉で知られる福井県あわら市です。小さいときには温泉街に芸妓さんがいて、小学校の通学路に芸妓組合があり、毎日三味線の音を聞いて登下校しました。母が美容師で、近くの置屋の芸妓さんがお客さんとして来ており、私は置屋さんに遊びにいったりしていました。

 演劇との出会いは、大学進学で東京に来てから。情報誌で歌舞伎特集をしていたので、銀座に行った際、ふらっと歌舞伎座の幕見席で見ることにしました。

 演目は『勧進帳』。中村吉右衛門さんが弁慶、松本幸四郎さんが冨樫、玉三郎さんが義経を演ってました。主役を張る3人が一堂に会し、「山伏問答」の場面では拍手が起こるほどの盛り上がりようでした。

 その後、歌舞伎、新劇、小劇場演劇と見ていきましたが、最初の舞台が頭から離れませんでした。学生時代は小劇場の舞台づくりに携わったり、東俳に所属したりしていました。就職活動を始めたものの、役者になりたいという思いが捨てきれず、文学座の研修生を経て、前進座に入ることが出来ました。

 当時は、憧れの「遠山の金さん」の中村梅之助が座長をしていましたし、前進座は歌舞伎も現代劇も両方出来るということで入ることにしました。

 今回、狂言舞踊『茶壺』をさせてもらいますが、狂言舞踊は、技量が求められ難しいものだけに、やりがいを感じます。

 2010年の米国公演では、私が麻估六、矢之輔さんが熊鷹を演じました。大うけで観客は「ブラボー」の連発。「この前来たシェイクスピア劇よりも面白かった」と言っていただきました。その感覚がまだ残っています。今回は私が矢之輔さんの役を演じることになります。米国公演のように楽しい舞台にしたいと思っています。

 1月9日(土)~15日(金)午前の部=午前11時、午後の部=午後2時、夜の部=午後5時。観劇料金=特別席9000円、一等席8000円、二等席(3階席)3000円。ただし、10日(日)・11日(月・祝)・13日(水)午後・夜の部貸し切り。12日(火)夜の部休演。問い合わせ劇団前進座京都事務所☎075・561・6300。

 【京都府日本共産党後援会 新春観劇のつどい】 11日(月・祝)午後5時。特等7500円、1等6000円、2等2500円。問い合わせ☎075・211・5371(同党京都府委員会)。