住宅地を見下ろすようにそびえ立つ2棟のJRホテル(奥)=京都市南区山王学区

「“お断り”今さら」「今度はあの弁護士さんに」

 京都市長選(2月2日投票)は、「つなぐ京都2020」の福山和人候補(58)の勝利で、市民の手に市政を取り戻すのか、安倍政権に追随し、利益第一主義の門川市政の継続かが問われる中、争点の一つ、観光インバウンド(訪日客数)優先による観光公害問題でも違いは明確です。宿泊施設〝お断り宣言〟はしたものの、具体策のない門川市長に対し、従前の支持層から「今度は支持しない」との声が上がり、宿泊施設総量規制など明確な政策を掲げる福山氏への期待が広がっています。

1㌔平方あたりの部屋数下京区が全国2位

 市内各地で問題となっている、ホテル・「民泊」ラッシュ――。市内の宿泊施設数は現在、どうなっているのか。驚く調査結果があります。1㌔平方㍍当たりの宿泊施設の部屋数最多の全国市町村ランキング(19年7月、「メトロエンジンリサーチ」)で、京都市下京区が東京都中央区などを抑え、2位(2617室)を記録したというのです(表参照)。同調査では、中京区が10位、東山区が18位と続きます。

 門川市長が策定した「宿泊施設拡充・誘致方針」では、2020年までに客室数を1万室増やし、4万室にする目標を掲げました。安倍政権の観光インバウンド政策の忠実な実行役として発した、宿泊施設拡大の大号令でした。その結果、19年3月には目標を超過達成し、市内全体の客室数は約4万6147室。市の説明では、20年度末頃には、目標を1万7000室オーバーの約5万7000室となる見込みです。

 全国有数の宿泊施設密集地帯となった京都市。その中でも、ホテル・「民泊」ラッシュの波に飲み込まれてきたのが、下京区菊浜学区(北は五条通から南は七条通、東は鴨川から西は河原町通に至る区域)です。交通の便もよく、繁華街に近いこともあり、同方針策定の16年から19年11月までに市の営業許可を得た宿泊施設は81件(「民泊」77、ホテル4)に上ります。その一方、ホテル・「民泊」建設による立ち退きなどで、人口(元学区)減はすさまじく、5年間(15~19年)に193人の減で、減少率は約11%に達します。

 「もうここはゴーストタウン。こんな町にした門川さんにはうんざりです」。そう話すのは、昨年の6月まで、下京区と市の各種団体の役員を務めてきた、同学区に住む女性です。自宅前のアパートにはかつて30世帯が住んでいたのが、今は1世帯だけ。周辺には空き家とさら地、「民泊」が4軒が並び、新たに5階建てのホテル計画が進んでいます。

 「1軒は中国、ホテルはカナダと外国資本がずらり。ここは外国ですか。福山さんという人の政策、宿泊施設の総量規制、学校跡地はホテルにしないっていいじゃないですか。こんな人に市長になってほしい」と言います。

 鴨川沿いに広がる同学区内の八ツ柳町。町会長の女性(69)は「晩になるとほんまに怖いんです」と話します。この間、立ち退きで、8軒の「民泊」が開業し、町内に住むのは4世帯、10人になってしまいました。「今さら、門川市長がホテルお断りなんて言っても、信用できますか。京都を食い物にしてきた門川さんには、降りてもらわなあかん」

 もう一つ、ホテル・「民泊」ラッシュにさらされているのが、JR京都駅の南側、南区の山王学区(北は八条通から南は東寺通南側、東は鴨川から西は西洞院通の区域)です。

私ら、ここに住んだらあかんの?

 15年に市が行った建物の高さと容積率の規制緩和が〝後押し〟し、16年~19年11月に許可を得た宿泊施設は91件(「民泊」81、ホテル10)にも達します。その中には、JR西日本が昨春、相次いで開業した2件の大規模ホテル(客室数468室、423室)も含まれます。

 「ホテル、民泊ばかり。私らここに住んだらあかんのやろうか」。東寺通の商店街で、食糧品店を営む女性(77)は、嘆きました。

 同学区では、宿泊施設建設による立ち退きなどで、5年間(15~19年)で人口(元学区)は273人も減少(減少率約8%)しました。そびえるホテルの足元に、住宅や空き家が並びます。学区近くにあった地元のスーパーは昨年7月に閉店。商店もまばらで、歩くのはキャリーバッグを手にした外国人グループばかりです。「宿泊客の深夜の騒音、ごみの放置、人は出て行き町はガタガタ。もうなんとかしてほしい」と、この女性は訴えます。

 「数年後、この商店街が残っているかどうか」(女性店主)。商店街で聞こえてきたのはホテル・「民泊」ラッシュを嘆く声や、安倍政権に従う門川市政への怒りでした。作業の手を止めて話してくれた高齢女性は、こう言いました。「普通に暮らしている者が、生活できるようにしてほしい。これまでは門川さんに入れたけど、今度はあの弁護士さんに入れようと思ってる」

 名勝「無鄰菴」の西側で進められている高層ホテル計画(左京区)に反対し、住環境を守ろうと運動を進めている東村美紀子さんは、「どうしても福山さんを市長に」と、支持拡大に奔走します。「実はね、前回は門川さんに入れ、福山さんが立候補した18年の知事選では、相手候補の西脇さんに入れたのよ」と打ち明けました。今度は違います。住民の声を一切聞かず、業者とは密接に話し合う市政のあり方に「福山さんで市政を変えるしかないでしょ。これでいいのか京都。一緒に変えよう」。力を込めました。

無鄰菴の西側、老舗料亭の奥で進むホテル工事を前に話し合う東村さん(左)=京都市左京区岡崎