亡くなった姉の写真を手にする植田さん

所得300万円で保険料約40万円

 「救えた命ではなかったのか」。京都民医連の園部建史さんは「民主市政の会」が開いた集会で、一人の男性患者のことを報告し、こう訴えました。京都市内に住むその男性は、国保料が高すぎて払えず無保険となり、受診が遅れたために昨年、初診から1カ月後にがんで亡くなりしました。発言する園部さんは、悔しさをかみしめました。

 本来、国保とは「社会保障及び国民保健の向上」(国保法第1条)を目的とした、国民に医療を保障する制度です。ところが、その制度が、市民の生活苦に追い打ちをかけ、命を脅かすまでになっています。原因は、高すぎる保険料です。現在、市の国保料は、給与所得300万円の30代夫婦と子どもの計3人家族で、39万9590円と、所得の13%に達します。

 保険料が払えず、正規の保険証が取り上げられた結果、手遅れで亡くなった人は、分かっているだけで2015年から18年までの4年間で、3人になります(京都民医連が毎年、行っている「経済的理由による手遅れ死亡事例調査」から)。

 「私たちに寄り添った市のアドバイスや援助があれば、助かったのに」。亡くなった3人の内の1人、本田美代さん=仮名=の妹、植田秋絵さん(70)=同=は、2年前のことを振り返り、目に涙を浮かべました。

 夫を亡くした秋絵さんは13年前から、離婚して同様に1人となった姉と南区で暮らしてきました。2人とも無年金。毎月の収入は、秋絵さんが、朝4時から夜中までトリプルワークで得た、計12万円のパート代だけ。国保料は区役所と相談しながら、分割納付してきました。しかし、月4万円の家賃も払えなくなり、保険料の納付も滞ると、保険証は、窓口での費用が全額負担となる資格証になりました。銀行口座に振り込まれたわずかなパート代が、差し押さえられたこともありました。

 そんな矢先、美代さんが腹痛を訴えるようになります。後で分かったのは、子宮頸がんの転移による腸閉塞でした。「妹に迷惑をかけられない」。美代さんは治療費を心配して3カ月間、我慢に我慢を重ねます。おう吐物はまるで便汁、激痛で鬼のような形相になっていました。「困った時は、ここへ」と聞いていた民医連の九条診療所(同区)へ、妹に抱えられて訪れました。それから10カ月後、亡くなりました。

 秋絵さんは「区役所からは、保険料の督促しかなかったです。残念です」と言います。

 門川市長は「乾いたタオルを絞るような、さらなる『行革』」(07年12月、市長選への出馬表明)をと号令し、滞納者へ過酷な制裁を進めてきました。

 正規の保険証の取り上げ件数は、今年3月1日現在で、1万4529件。内訳は、短期証となったのが7628件(被保険者世帯の3・7%)、資格証が2969件(同1・5%)、未更新が3932件(同1・9%)になります。

 預貯金や給与、生命保険などの債権の差し押さえ件数は、07年度の384件から、18年度には約9倍の3595件にまで、増加。サラ金業者のように、子どもの将来のために積み立てた学資保険も差し押さえています。

 「せめてもの親心さえ、市には通用しないですね」。昨年夏、学資保険が差し押さえられた整体師の男性は、怒りをあらわにしました。交通事故で仕事ができなくなり、国保料どころか、光熱費の支払いも滞りました。そんな生活に援助するどころか、市は差し押さえをしました。

 その一方で、保険料の減額などを行う、市の条例減免制度(退職や廃業、営業不振で今年度の所得額が、前年度より大幅に減少すると見込まれた場合など)の適用率は、減少の一途です。

 この間、各区役所・支所の担当課長と係長は、区・支所ごとで徴収率を競わされ、毎年、毎年、引き上げられた目標徴収率が突きつけられてきました。区長もその例外ではありません。その結果、徴収率は全体分も現年分も、10年連続して上昇する〝記録〟を達成。現年分の徴収率では、09年度で90・6%だったものが、昨年度には94・5%にまで引き上りました。

〝命の叫び〟届く市政に

 区役所保険年金課の職員はこう訴えました。「徴収率を毎年上げていくなんて、市民生活を無視しない限りできないことです。もう限界です。やるべきことは、高すぎる保険料の引き下げでしょう」

 安倍政権のもと、国でも昨年から、自治体ごとで徴収率を競わせる「保険者努力支援制度」を導入しました。「国保の都道府県化」と併せて、都道府県と市町村の取り組みを政府が〝採点〟し、〝成績の良い自治体〟に予算を重点配分する仕組みです。京都市のやり方は、国の先取りでしかありません。

 前出の園部さんは言います。「一般会計からの繰り入れ増額で『払える保険料に』は、市民の命の叫びです。その声が届く市政を必ず実現しよう」

■「差し押さえ増」都道府県化が拍車、交付金で自治体誘導/三重短期大学教授・長友薫輝さん

 京都市のように、国保料(税)が高すぎるために支払えず、差し押さえられる人の増加が全国的に問題になっています。それに拍車をかけているのが、昨年4月からスタートした国保の都道府県化です。

 狙いは、医療費抑制にあります。安倍政権が今年6月に閣議決定した「骨太の方針2019」(経済財政運営と改革の基本方針)では、市町村が一般会計から国保会計に繰り入れる自治体独自の国保料軽減策をやめさせることや、保険料収納率の向上、国保会計の赤字解消、都道府県内保険料水準の統一などを掲げています。財界からの要請を受ける形で、安倍政権あげて社会保障費の削減を狙っているのが特徴です。

 そのために導入されたのが「保険者努力支援制度」で、各自治体に競わせて交付金を配分する誘導型報奨(インセンティブ)方式が取られています。そこでは、保険料収納率向上や、一般会計からの繰入解消、加入者が滞納した場合に差し押さえ処分を行う方針策定などの項目があり、獲得したポイントが多い自治体ほど交付金が支払われる仕組みです。また、来年度から透析患者数を減らした自治体にポイントを加算するなど、医療費抑制のため、なりふり構わないやり方を進めています。

 国がインセンティブで自治体の方針を誘導するため、自治体の担当者から「国の方針通りにやるしかない」「(自治体の権限が弱められ)こんなはずじゃなかった」と悲鳴が上がっています。

 しかし、都道府県化しても保険料の徴収や、保険料率の設定などの権限は引き続き市町村にあります。自治体が一般会計から国保基金にお金を積み、国保会計に投入することはできるので、自治体が工夫すれば国保料を引き下げたり、据え置くことは可能です。強権的な滞納処分や差し押さえなどは自治体の努力でやめるべきです。

 国保加入者の平均所得は組合健保(主に大企業労働者が加入)の約4割と低いにもかかわらず、約2倍の保険料を支払わされるなど、高すぎる国保料が最大の問題です。国が財政負担を減らし続けてきたことが根本原因であり、全国知事会も、子どもに関わる均等割保険料軽減措置の導入や、国負担の引上げなどを求め続けています。国保を社会保障として位置づけ、国保料を引き下げることが求められています。

「週刊京都民報」11月10日付より