人間座公演「靴を失くして」
稽古中の(前列左から)菱井、多賀、佐々井、沢、(後列)田中

 1957年に結成した京都の劇団「人間座」(代表・菱井喜美子)は第65回公演『靴を失くして』を11月29日から12月1日まで、京都市左京区の同劇団スタジオで行います。同劇団が設ける脚本賞に応募された作品で、徘徊(はいかい)している老人を地域住民が見つけ、自宅に帰らせようと手を尽くす物語。「現代社会を考える上で、示唆に富んだ重要な作品」と位置付け、初演します。

 埼玉県狭山市の公園が舞台。地域に住む主婦は、ベンチに座っている不審な老人に気がつきます。右側の靴をはいていないのです。公園を管理している自治会長に連絡し、会長、巡査、老人の次男の嫁が公園に来ます。

 老人は認知症が少し進行している様子。一同が自宅に帰るよう諭しますが、「靴が見つかるまで帰らない」と動こうとせず、来た人々を自分の家族などと思い込んで昔話をし始め、語って来なかった戦時中の記憶を口にします…。

 配役は、主婦役が劇団代表の菱井、老人役がくるみ座出身で舞台、映画、テレビドラマで活躍する多賀勝一(まさる)、次男の嫁役がくるみ座出身でテレビドラマ「部長刑事」「水戸黄門」などに出演した佐々井泰子、自治会長役が演劇ユニット「正直者の会」主宰・田中遊(ゆう)、巡査役が全国学生演劇祭実行委員長も務めた若手俳優・沢大洋(たいよう)。

 人間座は京都大学の学生を中心に1957年に結成。設立時のメンバーは菱井のほか、戯曲を手がけた田畑実、演出もこなしテレビドラマ「部長刑事」にも出演した芦田鉄雄など。2017年、創立60周年を記念し「田畑実戯曲賞」を創設しました。

 今作は昨年度の第2回「田畑実戯曲賞」の応募作品。作者はフリーライターで劇作家の吉村健二(埼玉県狭山市在住)。やなせたかし創刊の文芸雑誌に投稿した片方のくつを失くした少女の悲しさを表現した詩と、近年増加している老人が徘徊して、行方不明になっている問題をもとにストーリーを構築しました。

人間の本質を多面的に描く

 「田畑実戯曲賞」の入賞にはならなかったものの、「この作品は現代社会を見つめさせてくれる作品であり、別役実作品のように抽象的表現の中に人間の本質を多面的に描いている」(菱井代表)と評価し、上演することにしました。

 舞台はベンチ、樹木、ごみ箱だけが置かれたシンプルなもので、場面転換はなく、役者にとっては“ブラックボックス”に放り込まれたような難しい環境です。菱井代表と客演、個性派役者5人が、真剣勝負で臨みます。

 29日(金)・30日(土)午後2時、午後6時半、12月1日(日)午後2時。一般3000円(前売り2800円)、学生2000円(前売り1800円)、高中生1000円。問い合わせTEL・FAX075・721・4763(人間座)。