経団連「提言」の資料。60年超延長やリプレース・新増設を求めています
原発利用の拡大を要求

 8日、日本経済団体連合会(経団連)が「日本を支える電力システムを再構築する」と題する提言を発表し、中西宏明会長(原発メーカーの日立製作所会長)が記者会見しました。

 会見資料では、「日本の電力は4つの危機に直面」しており、①火力発電依存度は8割を超え、その打開策としての②再生可能エネルギーの拡大も、③原子力発電所の再稼働も難しい状況で、④国際的に遜色ない電気料金水準の実現には至っていない、とし、「電気事業者は、投資回収の見通しを立てにくく」なったと続けています。

 そして、「電力投資を活性化する環境整備」を行い、「投資の回収可能性が見通せるよう」に「2030年以降の電力システムの将来像」を示すことを政府に求め、原子力発電について「既設発電所の再稼働やリプレース・新増設を真剣に推進しなければなりません」と述べています(太字や傍線は経団連による)。

 提言は、様々な問題を心配しているように装いながらも、目的が原発ともうけの保障にあることを露骨に語り、次のように、新増設等に加え、新たな運用の仕方まで求めています。

  •  ①「規制の合理化、審査の迅速化」という表現で、規制をゆるめ原発の再稼動認可を急ぐよう要求。
  •  ②安倍内閣が昨年閣議決定した「エネルギー基本計画」でさえ盛り込めなかった、原発の「リプレース(建て替え)・新増設」の政策化を強く要求。
  •  ③原発が「稼働していない期間」は「40年ないし60年の運転期間から控除すべき」と要求。不稼働期間が長引けば「極めて大きな初期投資」をしているのに資金回収ができない、とあけすけです。
  •  ④アメリカの原発で80年間まで延長申請した例をあげ、「運転期間を60年間よりもさらに延長」するよう検討を要求。
  •  ⑤高速炉等の新型炉、小型炉、高温ガス炉など、新たな原子炉開発の要求。

 提言の背景はもちろん厳しくなった原発環境、とりわけ海外輸出です。2000年代に世界的な「原子力ルネサンス」の波が起こり、日本も2005年に原発輸出推進政策を立て、原発メーカー(東芝、日立製作所、三菱重工業)が力を入れてきました。しかし11年の福島原発事故で、安全基準が強化され、工費は1基1兆円超と倍以上に高騰し、日立製作所によるイギリスの原発建設など輸出計画が総破たんしました。そこで国内原発に注力し、これを機にさらに原発政策を拡げることを政府に求めたのです。

 「4つの危機」はすべて原発業界中心の財界・政府に責任があります。火力発電依存度で、提言のいう「国際的な批判を強く浴び」ているのは、財界・政府が進める石炭火力の輸出です。経団連が石炭火力の規制に後ろ向きであるにもかかわらず、自らの責任を棚上げし、「脱炭素化」に原発が「不可欠」と強調する口実にしています。

 再生可能エネルギーの普及を妨げる最大要因は、原発優遇政策です。九州電力が太陽光発電などの出力制御を繰り返すのもその一つです。

 原発事故で地域社会を破壊し、賠償を含む巨費や安全対策費の高騰などで通常ならビジネスとして成り立たない原発にしがみつき、今なお、原子力のコストが安いと強弁しています。

 提言は、あらゆる問題を原発とその利益擁護の必要性を説くために利用し、提言通りにしないと「電力供給の質の低下や電気料金の高騰につながりかねません」と脅しています。

真の国民的議論が必要

 年頭の経団連の記者会見で中西会長が、原発について「真剣に一般公開の討論をするべきだ」等の発言をしたのは、決して原発事業の見直しを考えたのではなく、原発反対の世論の抑え込みを安倍内閣に期待したのです。まともな国民的議論をする気がないことは、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟が1月以降、経団連に公開討論を2度にわたって要請しても、中西会長が「エモーショナル(感情的)な反対をする人たちと議論をしても意味がない」(3月11日)と言い放ったことに象徴されています。

 「世界最高水準の安全性」という新たな安全神話の下、一層危険な原発依存社会への復帰を要求し、ひたすら自らの利益擁護を求める財界の姿は異常というほかありません。野党4党が国会に提出した“原発ゼロ基本法案”の審議をはじめ、真の国民的議論を巻き起こすことが重要です。