■問われる京都市の景観行政

 〝古都の竹林が泣いている〟――。京都を代表する景勝地、京都市右京区の嵯峨野に広がる竹林・約4600平方㍍(テニスコート18面分)が、高級有料老人ホーム建設のために伐採され、市民だけでなく海外からも驚きと怒りの声が上がっています。建設地も含め一帯には竹林が広がり、近くにある世界遺産・天龍寺や野宮神社を包み込む嵯峨野の美しい風景が保たれてきただけに、伐採を許可した市の景観行政のあり方が問われています。

緩衝地帯外れ市が伐採許可

 問題の場所は、右京区嵯峨天龍寺立石町の一画、約8963平方㍍の土地(地図参照)。その内、東端の一部を除く約8500平方㍍が竹林だったもの。一帯は野宮神社を囲むように竹林が広がり(写真右下参照)、大半は、古都保存法による歴史的風土特別保存地区で、木竹の伐採など一切の現状変更は禁止。併せて、同法の土地買い取り制度を使い、計画地西側の隣地の一部を市有地(約3800平方㍍)とすることで、竹林が保たれてきました。
 ところが、問題の土地は、市長の許可があれば建物の建築などが可能な風致地区(第2種地域)で、歴史的風土保存区域(届け出で現状変更可能)の規制にとどまり、世界遺産区域・緩衝地帯(バッファゾーン)からも外れるため、ベネッセホールディングス(岡山市)の運営による高級有料老人ホーム計画(建物の高さ10㍍・2階建て、43室)が浮上。風致地区条例では、既存の木竹を42%以上残すことなどを義務付けており、同計画の申請で46%、3900平方㍍の竹林を残す(約4600平方㍍は伐採)などとしたため、市は昨年12月、条例に基づき計画を許可したもの。1月には竹林伐採が行われ、建設工事(完了9月末)が進められています。

海外からも署名に賛同

 これに怒りの声が国際的に広がっています。
 近くに住む千原渉さんは「一私企業の利益のために、世界から観光客が訪れる嵯峨野の竹林の破壊を行政は許すのか」と言い、オランダやフランスなどの海外の知人ら6人で「美しい嵯峨野の竹林を守る地球市民の会」を発足。SNSで「みなさんの声だけが、(建設工事の)暴挙を止めることができます」と日本語と英語の呼びかけ文で、署名の協力を訴えてきました。
 署名は海外からも含め約2500人分(2日現在)となり、千原さんは先月、署名や要望書を文部科学大臣、文化庁長官や府知事、京都市長へ送りました。「竹林の美しさを際立たせる穂垣や竹垣は地元住民が設けたもので、美しい景観は住民の宝。グローバルに署名を呼びかけていきたい」と話しています。

■一体的な保全が必要/景観問題に詳しい飯田昭弁護士の話

 今回竹林が大規模に伐採された地域は、世界遺産・天龍寺のバッファゾーンと一体となった竹林ですが、厳密にはバッファゾーンから外れています。しかし、世界遺産条約では、世界遺産の真正性・完全性を担保するために、関わる自然、景観などの周辺環境も保全の対象とし、そのためにバッファゾーンを設けています。この趣旨を生かすなら、問題となった地域は嵯峨野の貴重な竹林として、一体的に保全することが市には求められていました。

 世界的には、バッファゾーンの範囲にとどまらず、外側にまで拡張して、世界遺産の景観を保全し、地域社会で活用していこうという活動が広がっています。この問題を契機に、世界遺産周辺の景観保全について、市民的討議が必要でしょう。

(「週刊京都民報」4月8日付より)