京都市伏見区出身でホームレス支援に取り組んできた映画監督・佐藤零郎さん(36)が、同郷の撮影監督の小田切瑞穂さんと再開発にゆれる大阪市西成区・釜ヶ崎を舞台に、16㍉フィルムで製作した喜劇映画『月夜釜合戦』がこのほど完成。2月3日、京都みなみ会館(京都市南区)で公開されます。同作は、映画全盛期のレトロな雰囲気や、住民への共感、住民の意向を無視して排除しようとするものへの怒りにあふれています。

■京都出身・佐藤零郎さんと小田切瑞穂さんタッグ

 この地で育ったメイ(太田直里)は娼婦となり、幼馴染みの大洞仁吉(川瀬陽太)を用心棒にして仲間と宿で暮らしています。

 ある日、暴力団「釜足組」組長を父に持ち、メイに思いを寄せる幼馴染みのタマオ(渋川清彦)が20年ぶりに帰ってきます。組長継承に必要な盃ならぬ代紋入りの釜が突然消え大騒動に。組員が次々と釜を買い漁り、値段は高騰。日雇い労働者やホームレスの炊き出しをつくる大釜まで狙われます。

 一方、行政は「街の美化」を名目に、公園などから野宿生活者を締め出していきます。開発業者も、立地の良さや土地の安さに目を付け、行政や「釜足組」と内通して再開発でひともうけしようと住民追い出しにかかります。炊き出しが行われる三角公園から労働者たちが追い出される事態に…。様々な釜をめぐる合戦の火ぶたが切られます。

■機微やにおいを16㍉フィルムで活写

 釜ヶ崎の人々が歩んだ人生の機微や土地の〝におい〟までもすくい取りたいとの思いから16㍉フィルムでの撮影にこだわりました。
 映画専門誌「映画芸術」昨年秋号に14㌻の特集が組まれたほか、「キネマ旬報」、「週刊金曜日」などでも紹介されました。

 大学を中退し、お笑い芸人や役者を目指しましたが、うまくいかなかった佐藤さん。悩んだ末に選んだのがドキュメンタリー映画の道。映画監督の故・佐藤真氏に学びました。

 ある日、京阪桃山駅で指揮者のように交通整理をしている男性が目に止まり、撮影を始めました。すると、男性は広島で被爆して体調が優れず、野宿生活をしていたのです。中学、高校時代に、父(佐藤和夫・日本共産党元京都市議)と野宿生活者の夜まわりをした経験もあり、ホームレスの人々を取材したいとの思いが膨らみ、釜ヶ崎での撮影を始めました。

 2007年、世界陸上競技選手権大会開催に向けて長居運動公園テント村の野宿生活者が強制撤去される問題が浮上。請われて警察と住民との攻防を撮影しました。スクラムで阻止しようとした住民は最後に、自分たちの人生を投影した演劇を創作・上演し、警察と対峙しました。

 編集した作品『長居青春酔夢歌』は2009年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で新人監督に贈られる「アジア千波万波」部門にノミネートされました。

 長居で自らも舞台に立った佐藤さんは、義もなく生活を奪う者より、舞台の上の人々のほうが人間的に「勝った」と実感し、その迫力に圧倒されたことから、次作は劇映画にすることを決めました。

 「理由があり集まってきた人々がドキュメンタリーで真実を語ることは難しい。劇という虚の空間だからこそ見えてくる真実があるのではと考えた」
 撮影監督は、桃山中学、鳥羽高校時代のバスケットボール部の後輩で、世界を撮影旅行していた小田切さんに依頼しました。

■全国が“釜ヶ崎化”に

 現在、各地の試写会で作品の魅力を熱く語る佐藤さん。「資本の都合のいい時だけに使う日雇い労働者を集めるために釜ヶ崎が形成された。非正規労働者の増加で、今、全国が〝釜ヶ崎化〟してしまった。社会的弱者を排除し、切り捨てる政治や社会でいいのか、排除された者たちが連帯して反撃するしたたかさなどを考えてもらえれば」と語ります。

 3日・4日午後3時、5日・6日・8日・9日午後7時55分、7日午後8時10分。1700円、60歳以上1100円、大学生以下・障がい者1000円。京都みなみ館☎075・661・3993。

(写真上=仁吉〔右〕が連れてきた孤児とメイ ©2017『月夜釜合戦』製作委員会、写真下=あべのハルカスを背にする佐藤監督)

(「週刊京都民報」1月28日付より)