京都府商工団体連合会事務局長 池田靖

 2月7日付日本経済新聞は「6日の東京株式市場で日経平均株価が大幅に上昇し、終値は前日比416円83銭(3.77%高)の1万1463円75銭と2010年4月に付けたリーマン・ショック後の高値を上回った」と報道しました。翌8日の日経新聞は、内閣府が7日に発表した2012年12月の景気動向指数改善の発表を受けて「景気、既に回復局面か」と報じました。内閣府は「円高修正による輸出環境の好転や経済対策の効果など良い材料が目立つ」と発表しています。
 安倍首相は国会答弁で「われわれは『3本の矢』によってデフレ脱却をめざしている。現在、金融の大胆な緩和というなかにおいて、まずは為替と株式市場に変化が出てきた」と「アベノミクス」の効果を誇っています。
 しかし、株の上昇については円安が輸出企業の業績回復につながるとの期待感から海外投資家の資金が活発に流入したものであり、本格的な景気回復との見方は尚早です。
 安倍首相の「3本の矢」は「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間の投資を引き出す成長戦略」ですが、この経済政策で、デフレ脱却が可能か、中小業者にどのような影響があるのか考えます。

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酒屋の立ち飲みが精一杯

 祇園でスナックを経営する久保田憲一さんは1月29日に東京で開かれた全国中小業者決起大会の壇上で次のように訴えました。
 「本当にひどい世の中になってきた。給料やボーナスはカットされる。残業がない。だから会社のすぐそばの酒屋さんで立ち飲みです。ビールのロング缶1本あけて、ピーナッツ1袋の500円コースが精一杯」。
 祇園では夜の街に人が歩いていません。働く者の給料が減り続けていることが、個人消費を冷え込ませ、飲み屋街の不況につながっています。
 全国中小企業団体中央会による「12月の中小企業月次景況調査」(1月21日発表)は、「12月の前年同月比DI値(景気動向指数)は、前月の前年同月比DI値と比べて8指標全てが上昇した。8指標全ての上昇は3月末以来9カ月ぶり。中小企業の景況は、新政権が発足し景気対策等への期待の高まりや円安への好感がある一方で、このまま進展すると輸入資材等が高騰するとの懸念、消費税増税による駆け込み需要の反動を懸念するとの報告も見られる等、先行きに注意を要する状況が続いている」と警戒感をのぞかせています。
 現実に、灯油の店頭価格は4年3カ月ぶりに全国平均で18リットル当たり1800円を超えました。レギュラーガソリンも12週連続で値上がりしており、石油関連製品は軒並み高騰しています。この石油製品の高騰は安倍政権が打ち出した大胆な金融緩和策で円安を誘導したことによる急激な円安と世界的な金融緩和によってだぶついた資金が原油先物市場に流れ込む投機で価格をつりあげている事に原因があります。小麦価格等も上昇しており、輸入資材の高騰が中小業者の営業を圧迫しています。「アベノミクス」は一時的な統計上の経済成長率改善に少しは寄与するかもしれませんが、雇用改善・賃金アップなどデフレ不況克服の根本的打開策を欠いているため、デフレを脱することができないまま一部大企業・金融界、ゼネコン、大資産家に恩恵をもたらす一方、大多数の労働者・中小業者には不況と物価上昇のダブルの困難を押し付けるものになる可能性が高まっています。

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労働者・中小業者に仕事とお金を回せ

 さらに安倍内閣の緊急経済対策は不要不急な大型公共事業への税金つぎ込みを目論んでいます。京都府を例に取ると、緊急経済対策による補正予算は400億円規模、うち200億円が土木予算です。京都府の通常の年間土木予算が230億円ですから、その大きさが分かります。府は安倍内閣の緊急経済対策を千載一遇のチャンスとして高速道路やバイパスなどに予算を一気につぎ込もうとしています。
 忘れてはならないのは、こうした大型公共事業の財源に消費税増税を充てようとしていることです。大型公共事業に湯水のようにお金を注ぎ込み、名目上の経済成長を演出して、国民・中小業者の営業とくらしに大打撃を与える消費税増税を強行しようとする安倍内閣のたくらみを許すことはできません。
 私たち民商・京商連は、安倍内閣の緊急経済対策に根本的な批判を行いつつ、府の補正予算について中小業者の営業に役立つよう緊急要請を行ってきました。府も雇用・中小企業対策の重要性は認めるところです。
 デフレ克服にはその原因である働く者の所得減少に歯止めをかけ、所得を増やす政策に転換することです。労働者・中小業者の生活費にさらに重税を押付ける消費税増税は論外です。朝日新聞世論調査(1月19日、20日実施)でも「消費税を来年4月に8%に、再来年10月に10%に引き上げることに賛成ですか。反対ですか」の問いに、賛成38%、反対53%と国民の反対は明確です。
 この夏の参議院選挙は、安倍政権の経済対策、消費税増税への国民的な審判の場となります。消費税増税中止、働く者の所得を増やすという真のデフレ克服の道を国民の多数の声にすることが求められています。(「週刊しんぶん京都民報」2013年3月10日付掲載)