人の優しさ感じたコンサート

復興支援コンサート

 2011年は、改めて言うまでもなく、東日本大震災と原発事故が起きたことで、様々な影響が出た大変な年だった。関西全体の演奏会の状況も、すでに数年前からの不況によって、いささか停滞気味と思えた演奏会の開催状況に追い打ちをかけるようなことになったと思われる。震災直後は、演奏会の中止であったり、出演者の変更などがあって、主催者側は対応に苦労されたことだろうと思うが、それでも関西は、直接的な被害がなかったことで、間もなく通常と言える状態に戻ったように感じられた。そんな中で、音楽に携わる者にも出来ることを、と「東日本大震災復興支援」と銘打ったコンサートが次々と開催されたことは、人の優しさを感じさせる嬉しい出来事だった。

音楽界牽引した京響

 京都の音楽界に目を向けると、筆者は大阪在住で、関西全体の演奏会を取材対象としているため、年間に出かけるコンサート全数の3割程度しか京都の演奏会を聴いていないのが実情。そのため総括的なことは言えないのだが、京都の音楽界を牽引しているだろう京都市交響楽団は、年11回の定期演奏会を堅実かつ順調にこなし、そのほかに2月20日には井上道義指揮で、滅多に上演されないマスカーニの歌劇「イリス」が京都コンサートホールで上演された時、充実の上演に大きく貢献していたことが記憶に新しい。その京都市交響楽団の定期演奏会では、今年聴いたすべての演奏会の中でベスト・パフォーマンスに挙げられるほどの感銘深い演奏だったのが、大野和士が客演した7月24日の第548回。マーラーの交響曲第3番を、いつもとは違うオーケストラと思えるほど精緻かつ美しく演奏し、曲の魅力を存分に伝えたことが強く印象に残っている。

音楽賞受賞の実力派

 リサイタル系は、京都コンサートホールの、いわゆる小ホール、府民ホール・アルティ、バロックザールの3カ所に集中しているようで、様々な演奏会が開かれていた。充実した演奏内容で印象に残っているのは、バロックザールで開かれたリサイタルの中から優秀者に与えられる青山音楽賞を受賞し、その後海外で学んだのちに開く音楽賞受賞研修披露演奏会に出演した2人。2007年度音楽賞新人賞受賞者でチェロの辻本玲の10月8日のリサイタル、2005年度の音楽賞受賞者でピアノの佐野えり子の11月3日のリサイタルが、いずれも実力を発揮した魅力的な演奏を聴かせた。
 一方、府民ホール・アルティでは、アルティ演奏家支援シリーズに出演したヴァイオリンの黒川侑の7月23日のリサイタルが秀逸。また同ホールを本拠とする京都アルティ弦楽四重奏団が10月20日に第15回の公演を行ったが、結成十数年を経てますますアンサンブルに磨きがかかり、なおかつそれぞれの奏者の個性が一層良く発揮されてきている。今後にさらなる期待を抱かせる演奏を聴かせたことも付け加えておきたい。(音楽評論家・福本健)
「週刊しんぶん京都民報」2011年12月4日付掲載)