湯浅誠氏の講演(10)
 では、それを断ち切るためには、労働条件全体を良くしていかないといけないということになり、これは労働組合の仕事だという話になるわけです。問題はつながっているので、あっちの問題だと考えるとかえって問題を見損なっちゃうんです。
 貧困に陥った人は大変だとか、職場を働きやすくしましょう、だから正規も非正規も連帯しましょう、と口でいうのは簡単なんです。現場は言うほど簡単ではありません。でも、このままで、そのスパイラルを放っておいて良くなる見込みもないのも確かです。そういう状況を良くしていこうと思うとますます忙しくなり、それはそれで大変です。でも放っておいても大変になります(笑い)。どっちの大変さをとりますかという話なんです。少なくとも、放っておく大変さは、良くなる見込みゼロです。でもやったからといって必ず良くなるとは約束できません。だけど、少なくともやらないと絶対に可能性もないなっていう、それも間違いないことです。どっちも大変だけど、どうせ選ぶなら、「うんこ味のカレーかな」と(笑い)いう風なところですね。
 そういう中で自分の職場の問題と社会全体の問題をつなげて全体を変えていく。職場の条件を良くして貧困を減らす、「ノー」と言えない労働者を減らすということです。セーフティーネットがしっかり張ってあることによって、労働市場は質が保たれていきますから。
 「派遣村」の人たちは、生活保護など活用しながらアパートに入っています。生活保護を受けたことで相当、批判されましたが、われわれは「ノー」と言える労働者を増やしたかったんです。生活の下支えを受けてアパートに入ることによって、寮つき日払いではない仕事が探せるようになるわけです。ハローワークに行くことが意味をもつようになる。社会保険がついている仕事がいい、雇用保険がついている仕事がいいな、と言えるようになる。自分はこういう仕事で働いてきたから、こういう仕事に就きたいと考えられるようになる。仕事を失ってもアパートまでは失わない、今度くらいはそういう働き方をしたいと。それは、普通の人が今まで当たり前のようにやってきたことですね。当たり前のようにやってきたことをその人たちがやりたいといったら、わがままだといわれるのかという話ですね。
 「ノー」といえる労働者が増えれば、日給4000円では人は集まらないということになります。労働市場の質が保たれていくようになります。ですから、社会保障が十分でない国は労働市場が底抜けになる、ここの推移は一緒です。生活保護基準と最低賃金が連動したでしょ。生活保護基準が下がれば、最低賃金が下がっても、これで最低生活を満たしているって話になる、上がればここまで上げなきゃいけないという話になります。労働市場の中と外をセットで考える、収入と支出をセットで考えることです。これは、男性より女性の方が得意でしょ。運動的にいうと、労働運動と社会保障運動を連携させてやっていくということです。個別相談でもそうだし、全体の運動的でもそうですね。連携しないと、この「貧困スパイラル」は止まりません。止まらなかったら損するのはわれわれ全員、社会全体ですから、ここで何とか、踏みとどまっていければと思います。(終)