個人ツアーに参加した高校生ら(7月20日、ウトロ平和祈念館)

“分断と対立乗り越えた歴史”海外からも関心

 7月の参院選で「日本人ファースト」を掲げる参政党が議席を伸ばすなど、排外主義が急速に強まるなか、在日朝鮮人労働者たちが暮らしてきた宇治市ウトロ地区の歴史や人権について学ぶウトロ平和祈念館に注目が集まっています。

 ウトロ地区は、戦時中、政府が進める京都飛行場建設のために集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成された集落。祈念館は、同地区の人々の営みを通じて、人権と平和、共に生きることの大切さを考えるとともに、日本と朝鮮半島の未来を担う人たちが出会い、交流する場を目指して2022年4月オープンしました。

 開館時は年間2000人の来場者を見込んでいましたが、初年は8カ月で8375人、昨年は9747人と、予想を上回る人々が訪れています。大学のゼミの学習、学校や企業の人権研修の場としても利用されています。

 先月20日に行われた、個人・家族でウトロ地区の歴史や平和を学ぶ月1企画の「個人ツアー」には、青年の参加が目立ちました。友人と2人で大阪府枚方市から参加した高校3年生は、参院選でマスコミが「外国人問題」が争点であるかのように報道し、同調している人が増えると感じたため、在日朝鮮人の歴史を学び、考えようと訪れました。

Kポップファン 千葉から母親と

 Kポップファンの高校生も千葉県から母親とともに参加。Kポップアイドルのグッズ販売店が立ち並ぶコリアンタウン、東京都新宿区新大久保で、在日コリアンに対するヘイトクライムが起こっていることを知って胸を痛め、在日コリアンの歴史を学ぶようになったと言います。

 その日は、金秀煥(キム・スファン)副館長が同地区の歴史や同館について解説しました。ウトロ地区の人々が戦後、水道も整備されない劣悪な環境に置かれていたことを紹介するとともに、強制立ち退きの危機を在日コリアン、日本人、韓国の市民の連帯によって乗り越え、放火事件というヘイトクライムにも市民と手をとり合って立ち向かい、オープンにこぎつけたことを解説しました。

 さらに、開館後は、ボランティアの学生たちが祈念館について英語で発信し、海外の訪問者が増えていると指摘。世界各地で分断や対立はあるなか、それを乗り越えたウトロ地区の歴史を祈念館が紹介していることに海外からの訪問者が関心を寄せていると強調しました。

 このとき金副館長をサポートしていたのが、韓国人留学生の廉翔云(ヨム・サンウン)さん(26)。韓国語、英語のスキルを活かし外国人来館者の通訳などをしているボランティアスタッフです。

 「ウトロ地区の歴史や取り組みを本当に多くの国の人々が学びに来てくれています。祈念館が国際交流・多文化共生の拠点として注目が高まっていることに、スタッフとして誇りを感じています。他では出会えなかった人々と知り合いになれることは本当に貴重」と微笑みます。

歴史に向き合う祈念館の役割大

 同館開館時から広報スタッフとして活動する在日コリアン3世の申(シン・大内)百合子さん(46)も同館の魅力について語ります。

 「私が在日コリアンだと周囲の友人は知っていましたが、質問されることもなく、壁のようなものがあると感じていました。この祈念館では、国籍が違っても、認め合える。心の中が明るくなります。違いを乗り越え、交流することのすばらしさをアピールしたい」

 排外主義が強まっていることに、不安や危機感を感じて同館を訪れる人が増えたという金副館長。「『外国人が優遇されている』などとする主張が強まっていますが、祈念館の展示を見れば、常に冷遇されてきており、優遇された歴史などないことが分かります。対立、分断をあおる風潮が強まるときこそ、歴史に向き合い、人権について考えるウトロ平和祈念館の役割は大きい」と語っています。