事業者が地元区長らに示した資料をもとに作成した建設予定地 ©Google
上宇川漁協「工事に伴う土砂流入でアユへの影響懸念」

 京丹後市、宮津市、伊根町の山間部で、大規模な風力発電所の設置計画が浮上しています。近隣住民からは、風車設置に伴う山林の造成や工事道路の設置などによる自然環境の破壊や動植物への影響などに対して不安や懸念の声が上がっています。

 設置・運営を計画しているのは、前田建設工業(本社東京都千代田区)です。同社によると、予定地は2カ所で、「仮称・丹後半島第一風力発電事業」として伊根町菅野地区と宮津市日ケ谷地区の周辺、同「第二風力発電事業」として京丹後市丹後町宇川地区の周辺です。

 風車の高さは最大約180㍍、羽の直径は最大約136㍍です。「第一」に最大12基、「第二」に最大15基の計27基を設置予定で、発電量は2カ所で一般家庭約5万2000世帯分です。国の固定価格買取制度で全量売電する計画です。

 今回の計画地は、環境省の再生エネ導入のポテンシャルマップや府の「再生可能エネルギーの導入等促進プラン」などを参考に選定したとしています。

 発電所の設置には今後、主に、国の環境影響評価法と「京都府林地開発行為の手続に関する条例」に基づく手続きを進める必要があります。

 同社は、詳細な設置場所について、22年の春から予定している風況調査や同法に基づく環境アセスをもとに決定し、25年8月に着工、27年8月の運用開始を見込んでいます。

山林に工事用道路の設置も

 同社は、6月上旬に宇川地区の区長らへの説明会を実施しました。その中で、風車の設置に伴い山間部に幅5メートルの工事用道路を設置するなど、山林での木の伐採や造成工事を行うとしていることから、工事に伴う環境への影響に地域住民から不安の声が上がっています。

 京丹後市の予定地の東側には宇川が流れており、予定地の方向からは支川も流れ込んでいます。宇川は天然アユが遡上し、京都大学が主体となった日本初のアユの調査・研究が行われた河川です。

 上宇川漁業協同組合の酒井満雄組合長は、アユへの影響を懸念しています。アユは、主に川の中の石についたコケを食べており、川に土砂が流出して石が砂に埋まるとコケがつかなくなると指摘します。「過去、上流域で道路や農地整備など工事があるたび、土砂が流入している。今回の計画に関しても影響が十分に考えられる」と語ります。

予定地がある宇川上流方向を示す酒井組合長

 同地区の地区役員の男性は、森林や河川などの自然の恵みを農業などの生活の基盤として、人が住み着いて現在の集落が形成されたと言い、「風力発電の全てが問題ではなく、農村の環境に影響が出るような大規模な計画は、里山の暮らしと両立しないのではないか」と語ります。

 予定地は民家から約1キロ以上は離れていますが、「風向きによっては騒音が問題とならないか」という不安もあります。また、建設車両が付近の集落の生活道路を通行する予定で、住民生活への影響も懸念しています。

絶滅危惧種付近で目撃

 風力発電をめぐる動物への影響に関し、日本生態学会は会長声明(21年3月22日付)で、風車への猛禽類や渡り鳥の衝突などの問題があると指摘。適切な導入のためには、猛禽類の生息地や渡り鳥の移動ルートなどを回避し、「生態系や生物多様性に配慮した立地選定を行うことが最も重要である」と指摘しています。

 丹後半島などでツアーガイドを務めている安田潤さんは、予定地周辺でクマタカを目撃したと言います。

 クマタカは山地に生息し、森林内の急斜面にある大きな樹木に営巣しており、府のレッドデータブックでは「絶滅危惧種」に指定されています。

 前田建設工業の風力発電事業をめぐっては、同社が20年8月に山形県にある出羽三山の一つ、羽黒山周辺での計画を公表したことに対し、地元住民が修験道の聖地の景観を損なうと反対し、吉村美栄子知事(当時)も「建設はあり得ない」と不快感を示しました。住民らの反対の声を受け、同社は同年9月に計画撤回を表明しました。

 京丹後市の計画地の北側に隣接する依遅ケ尾山(いちがおさん)の山頂には、修験道の開祖、役行者をまつった木造の祠があります。