建設計画が“消滅”する見込みとなった舞鶴市のパーム油発電の予定地(舞鶴港内の府有地)。奥には住宅地が広がっています

悪臭・騒音被害を懸念 住民「市長はまったく聞く耳持たなかった」

 舞鶴市喜多で計画されている国内最大規模のパーム油発電所の建設計画が事実上、断念に追い込まれました。生活環境の悪化を懸念する住民が反対の声を上げ、同発電が地球温暖化対策に逆行すると専門家が指摘するとともに、日本共産党も舞鶴市議会・府議会で計画撤回を求めてきました。こうした住民の声や指摘に背を向けて、一貫して推進をしてきた同市と京都府の責任が問われています。

 事業主体「舞鶴グリーン・イニシアティブス合同会社」(MGI)のオーナー企業Ampは4月に計画からの撤退を表明。「7月1日からMGIの清算手続きに入る」としており、手続き完了で計画も消滅する見通しです。

 舞鶴市の多々見良三市長と京都府の山田啓二前知事は2016年4月、当時は事業主体となる予定だった日立造船(大阪市)に舞鶴市内での建設を要請する信書を送付。また、府・市が日立造船に候補地の情報提供を行い、舞鶴港の府所有地が予定地となりました。

 また、府は、17年8月に舞鶴港でのバイオマス発電所などの建設・増設への上限1億円の補助制度を創設。18年3月には、同港でのバイオマス発電所の立地促進を掲げる構想を策定しています。

 府・市の推進姿勢の一方、予定地周辺の住民を中心に反対運動が起こりました。きっかけは福知山市で稼働中のパーム油発電所周辺の住民が深刻な騒音・悪臭被害を訴えていたためです。福知山市の発電所を視察し、「舞鶴の計画地は福知山と同様に住宅地に隣接している。発電規模は福知山の約40倍で、大変な事態になる」と危機感を持ちました。

自治会の総意で反対を決議

 予定地がある喜多自治会は今年1月、自治会として建設反対を決議。4月には、193戸中188戸が「反対」としたアンケート結果を市に提出しました。地区内には建設反対を訴える赤いのぼりが並びます。

1月25日に開かれた住民説明会では、住民から反対意見が相次ぎました
予定地周辺に並ぶ建設反対を訴えるのぼり

 また、市民団体「舞鶴西地区の環境を考える会」は1月、インターネットで集めた署名約1万1000人分を経産、環境両省に提出。6月23日には日立造船の株主総会で反対をアピールしました。

 こうした住民の声に対し、同市議会3月定例会で計画賛成の議員が、「政党活動と見受けられる場面もあった」と反対運動を「敵視」する発言を行いました。これに対し、多々見市長は、「反対を前提に動いている、そのことはしっかり区別して」不安に応えていくと住民を分断するような「暴言」を述べました。

 また、多々見市長は4月の記者会見で、生活環境の悪化の懸念に対し、市民向けの説明資料を公開したと述べ、「どっちが論理的かしっかりと理解していただきたい」などと語りました。

 喜多地区自治会でパーム問題に取り組む「環境保全委員会」の大西寛治代表は、「市の資料は事業者のデータをそのまま載せているだけ。我々は学習し、専門家にも話を聞いて、根拠をもって問題点を訴えてきたが、市長は全く聞く耳を持たなかった」と語ります。

 舞鶴市はAmp社の撤退表明後も計画に固執し、市議会で日本共産党の小杉悦子議員の質問に対し、税収増や雇用創出が見込まれるとし、「市の発展に必要なインフラ」(6月10日)と強弁しました。

 同「考える会」の森本隆代表は「経済優先で市民が犠牲になるようなことは受け入れられない」と語ります。

 府は府議会で、同党の水谷修議員が推進姿勢を改めるよう求めたのに対して、「今後とも舞鶴市と地元住民の協議の状況や事業主体の動向をふまえ対応したい」(6月19日)と述べるに留まりました。

専門家「温暖化対策に逆行」 “環境に良い”盲信

 府・市はパーム油発電が再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の対象で、地球温暖化防止に役立つという認識を示してきました。

 しかし、パーム油は原料の栽培のために熱帯林が開発されるなど、大量の温室効果ガス(GHG)を排出すると環境団体などが指摘してきました。経産省の資料でもGHG排出量は天然ガス火力発電を上回るとされています。

 この点に関して府・市は使用するパーム油は国際認証「RSPO」を取得しており、持続可能性が担保されているとしてきました。

 しかし、同認証にGHG排出規準はありません。また、経産省では今夏にパーム油などのGHG排出をめぐる問題を検討することになっています。

 バイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき理事長は、「事業を推進する以上、行政として環境団体の指摘や経産省での議論の動向などについて情報収集し、検証するべきだった」と指摘します。