国連加盟国の3分の2を占める122カ国の賛成で、核兵器を違法とする核兵器禁止条約が7月に成立。「主導的役割を果たした」として、ノーベル平和賞に、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN=アイキャン*)が選ばれました。ICANの国際運営委員の川崎哲さん(49)と京都原水爆被災者懇談会世話人の花垣ルミさん(77)が11月21日に対談。唯一の被爆国・日本のかたくなな反対の態度に対し、被爆者と市民の運動で草の根から変えていこうと思いを重ねました。

■国連最初の決議は非戦と核廃絶

 川崎 国連は第二次世界大戦後に結成され、二度と戦争を繰り返してはいけないと国連憲章を作りました。国連総会の最初の決議は、核兵器廃絶を求める決議です。国連ができた意味は、戦争を繰り返さないことと核兵器廃絶でした。一度戦争が始まってしまえば、核兵器に行きつくことを世界は広島・長崎の現実から学んだんです。日本の私たちは、戦争も核兵器も無くそうと言い続け、72年が経ちました。ようやく核兵器禁止条約ができ、出発点に立ったということです。

 花垣 私は5歳で広島で被爆し、その記憶が戻ったのは03年でした。それから核廃絶の運動に参加し、語り部活動も行っています。05年に初めてNPT再検討会議に参加した時、京都生協の仲間がプレゼントしてくれた白いブラウスを着ていきました。ブラウスに出会った人たちにサインしていただき、100人以上の名前が書かれています。前長崎市長の故・伊藤一長さんや今年亡くなった長崎で被爆した谷口稜曄さんの名前もあります。この人たちの思いを背負って活動を続けています。国民の多数は戦争反対、核廃絶を願っていると思います。何とか日本政府の姿勢を変えたいですね。

 川崎 そうですね。日本のNGO団体や市民がNPT再検討会議などで、核廃絶を求める署名を訴えたり、アピール行動を行っていることは世界的にも知られています。そういう国民の願いと日本政府の動きは大きく食い違っており、注目されています。

 花垣 ノルウェーもNATO加盟国ですね。

 川崎 日本と同じく、アメリカの核の傘のもとにあります。ノルウェー国民は、自国からノーベル平和賞を出すことを誇りに思っているんですよ。国際会議でオスロに行った際、夜の居酒屋で、若い女性が「ノルウェー国民はノーベル平和賞に誇りを持っている」と話しているのを聞きました。これは相当浸透していると思いましたよ。

 花垣 それはいいことですね。

 川崎 ノーベル賞を選考するノーベル委員会は政府から独立した機関ですが、国の承認が必要です。そのおひざ元でICANの受賞となれば、ノルウェーも揺れ動くでしょうね。おそらく10日の授賞式を機に、条約に賛成した122カ国は、遠からず署名すると思います。

■ピースボートで被爆者を世界へ

 花垣 川崎さんが共同代表を務めておられるピースボートに被爆者の方が参加され、各国で証言活動をしておられますね。私も誘われましたが、3カ月という長期間は家を空けられず、なかなか行けません。被爆者を乗せて世界各国を回るという活動はいつごろから、どうして行ったんですか?

 川崎 最初に取り組んだのは2008年で、ピースボートが25周年の時でした。世界各国を回っていて日本から来たというと「お前は広島・長崎の国から来たんだな」といわれる事が多いんです。日本の平和団体として世界に出ていく時に、広島・長崎の被爆体験を話す活動が求められていると実感しました。

 花垣 でも、皆さん高齢だし、大変ですよね。

 川崎 はい。1回だけと思ったのですが、実はすごく手ごたえがありました。ピースボートだけなら「今年も来たか」で終わるところを、被爆者と一緒ならと、受け入れ国のメンバーが記者会見を設定してくれたり、たくさんの人が聞きに来たり。もう9年続けています。計170人の被爆者に参加いただいています。その活動が認められ、2010年にICANに参加を要請されたんです。

■府内の全首長に署名実現迫ろう

 花垣 被爆者が訴えることは大事だと思います。京都では7月15日に「ヒバクシャ署名京都の会」を京都原水爆被災者懇談会、京都「被爆2世・3世の会」、京都府生活協同組合連合会、原水爆禁止京都協議会の呼びかけで結成し、50万人を目標に署名に取り組んでいます。毎年、京都府内の自治体へ被爆者援護や核廃絶、脱原発を訴えにも回っています。

 川崎 大事な活動ですね。日本にある各国の大使館を回る活動もかなり有効ですよ。今年は8月に長崎で行なわれた平和首長会議には、全世界で7000以上の都市が加盟し、日本からは9割近い1600自治体が参加しています。ここで「全加盟都市は必ずこの核兵器禁止条約の批准を求める運動をする」という決議が上がっています。日本の自治体は立ち上がらなければならないわけです。ヒバクシャ国際署名にサインした首長は960人を超えたところです。

 花垣 京都で署名した首長は、まだ10自治体と聞いています。まだまだできることはありますね。

 川崎 京都で全首長が署名するよう大いに宣伝していただきたい。地方議会で核兵器禁止条約の批准を求める決議を上げたり、声明を出す運動も重要です。ヒバクシャ国際署名と自治体の連動にICANの国際運動を合わせて、少なくとも日本政府に「核兵器禁止条約に署名をする方向で頑張る」と言わせるところまでは持っていきたいですね。10日の授賞式には日本から、サーロー節子さん、日本被団協の田中煕巳代表委員と藤森俊希事務局次長の3人が参加します。世界中でニュースが流れると思いますので、大いに取り組みを進めていただきたいですね。

 花垣 世論を盛り上げ、頑張りましょう。ありがとうございました。

International Campaign to Abolish Nuclear Weaponsの略。核兵器を禁止し、廃絶するために活動する世界のNGO(非政府組織)の連合体。07年、核戦争防止国際医師会議を母体にオーストラリアで発足。11年にジュネーブに国際事務所を設置して以来、核兵器の非人道性を訴える諸国政府と協力して核兵器を国際法で禁止するキャンペーンを世界的に展開。現在、世界101カ国の468団体が参加。日本からNGO「ピースボート」、同「ヒューマンライツ・ナウ」、同「平和首長会議」、「核戦争防止国際医師会議日本支部」、「反核医師の会」、「Project NOW!」など7団体が参加している。

(「週刊京都民報」12月3日付より)