「子どもたちのためにも、心身とも元気に働き続けたい」「国や京都市は保育の“質”や“専門性”をどう考えているのか」――京都市左京区の朱い実保育園で2月22日、同園で働く保育士や栄養士らが処遇改善などを訴える企画に取り組みました。「朱い実保育園の中心で『限界』をさけぶ」(福祉保育労朱い実分会主催)と題した集会で、保護者の父母約50人を含む80人が参加しました。

 保育士の処遇をめぐっては、全産業平均と比べて約10万円低い賃金のもとで、待機児童対策からも改善・賃上げは必須の課題ですが、国の17年度予算案でも月6000円程度の賃上げに留まっています。また、民間保育園が9割を占める京都市では、保育士給与の官民格差是正を目的に、市が補助金を供出し、給与保障を行う制度(プール制)がありましたが、2010年度以降の制度改変(各園の取り組みに応じて配分するポイント制への移行)や補助金額の減額などの結果、ベテラン・中堅の保育士が多く在籍する園ほど労働条件が引き下げられる状況が生まれています。こうしたもとで、同園でも一定年数以上で定期昇給がストップする給与表への移行が検討されています。

 同分会長の下條拓也さん(31)が企画趣旨と京都市の保育を取り巻く情勢を説明し、「保育士も子どもたちと一緒に成長していくのが、保育園というところ。そこで働く保育士が心身ともに健康で元気であることが大切ですが、現状はそうなっていません。こうした実態を保護者をはじめ、多くの人に知ってほしい」と呼びかけた後、3人の保育士、栄養士が現場からの訴えを行いました。

 乳児クラスを担当する2年目の女性保育士(25)は、「3対1」の配置基準でも「あと1人先生がいたら…」と思う場面があることを紹介し、「日々、考える余裕がないまま保育をしているなかで、経験ある先生のアドバイスに助けられています。今後、ベテランや中堅の先生が働き続けられなくなるのはしんどいし、自分にとっても賃金が上がらない給与表はやめてほしい」と訴えました。

 給食室で働く栄養士の女性(22)は、保育園に栄養士の設置義務がなく、保育士よりも低い調理師の給与表で働いていることを紹介し、「アレルギー対応や月齢にあった離乳食を考えたり、日頃の様子を見て味付けや食材を選んだり、ただ給食とおやつをつくるだけでなく、食を通して“保育”をしている先生だと思っています。日々、子どもたちに食の大切さや楽しさを伝えることにやりがいを感じています。保育園の栄養士の必要性をもっと理解してほしい」と語りました。

 来年20年目を迎える女性保育士(41)は、京都市が「京都の保育は全国に誇れる」と繰り返す一方で、肝心の「保育の質」が単に面積基準や保育士配置基準が守られていることだけで保障され、保育士の経験年数や子どもたちを見る技術などを一切考慮してくれないことに腹立たしく感じていると話し、「子どもたちの言葉にならない表現をどうくみとるのか、経験と技術を要することです。それを見てくれない。保育士を10年やって分かることは少ないです。発達の本を読めば分かるなんてものじゃない。子どもたちの大きなエネルギーを受け止めて働く私たちの“働く環境”を良くすることの大切さを知ってほしいし、保護者のみなさんにも国や京都市に声を上げてほしい」と訴え掛けました。

 最後に、同分会から保護者に向けて、3月16日に京都市役所前で行うアピール集会(午後2時、福祉保育労京都地本主催)への参加とともに、企画に参加しての感想などをSNSや「市長への手紙」、新聞投書欄などで発信することを呼びかけました。

 3人の訴えを受けて、同園に子ども通わせて9年目になる保護者の父親が、年長クラスで国基準を上回る職員配置を続けていることが子どもたちの成長や発達にとって大きな役割を果たしていると述べ、「先生たちが親たちの頼れる存在として、ずっと働き続けてほしい」とエールを送りました。

 企画に参加した、2歳の長女を通わせる保護者の母親(42)は、「国や京都市が保育の現場を理解していないことが残念です。ただ、そうした状況でも、子どもたちのために働く環境を良くしたいと声を上げている先生たちのパワーをうれしく思いました。先生たちが元気に長く働き続けられるために、保護者としてできることをやりたい」と話していました。