卯の花 府立植物園の植物生態園(総面積15000平方メートル:外周部は樹木林、内部は国内を8区分けて植生させている)では、春の花でにぎわっています。アチコチに群生しているオドリコソウ、何重にも赤紫色の細い花を付けているクリンソウ、真っ白な可憐なアオコウツギやヒメウツギ、湿っぽいところに自生するシャガなどが一斉に花を付けています。
 雨上がりの小径で、草花を愛でているように見入る年輩の男性は「冬を越した小さな草花、いろんな花が咲きはじめていいですね。ここに来るのが楽しくなります」と笑顔で話します。
 写真は可憐で真っ白なヒメウツギです。佐々木信綱作詞、小山作之助作曲の「卯の花の、匂う垣根に 時鳥(ホトトギス)、早も来鳴きて…」の唱歌・『夏は来ぬ』は今も多くの人の胸に刻まれています。
 ヒメウツギ(学名Deutzia gracilis:姫空木、姫卯木:ユキノシタ科ウツギ属で同じ仲間に一般的なウツギ、ウラジロウツギ、マルバウツギやウメウツギなどたくさんあります)はウツギ仲間では少し小ぶりで、初夏(5月~6月頃)にたくさんの小枝に白色5弁の小さな花をたくさんつけます。ウツギ仲間は旧暦4月(卯月)に咲くので「卯の花」、幹が中空なので空木(ウツギ)、古くから木釘に用いられたので「打つ木」でウツギとか? 万葉集をはじめ和歌や俳句にもたくさん詠まれ、昔から愛され親しまれてきました。(仲野良典)
 「春されば卯の花くたし吾が超えし 妹が垣間はあれにけるかも」(よみ人しらず)
 「山かげの垣根に咲ける卯の花は 雪かとのみぞあやまたれける」(良寛)
 「卯の花も母なき宿ぞ冷まじき」(芭蕉)