京都市が進める京都会館(左京区岡崎)の建て替え計画に対して、建物を守れの声が全国から上がっています。市民団体が中心となって取り組む「保存を求めるアピール」に賛同した劇団民藝の女優、奈良岡朋子さんに会館への思いを語ってもらいました。
奈良岡朋子さん(劇団民藝提供)

 1950年、劇団民藝の旗上げ公演は『かもめ』ですが、東京で上演できず、兵庫県西宮と京都でわずか10回だけの公演でした。創立間もないヨチヨチ歩きの民藝を文字通り支えてくださったのが京都の街でした。1950年代はほとんどの作品を京都で上演したのではないでしょうか。
 当時、演劇のための設備の整った劇場がなく、ついに1960年5月、念願の新劇場・京都会館を得た時の高揚感、まるで自分たちの劇場を持てたような誇らしさは忘れることができません。
 今回の全面改修のことを知り、私の個人的なノスタルジーからだけでなく、日本という国の文化に対する考えの脆弱さを情けなく思いました。
 外観には手を付けないで、劇場の内部機構を改修すればよいと思います。本来劇場とはそういうものです。
 古い劇場には、その舞台に立った俳優、音楽家など数多くの芸術家の魂が生き続けています。また何代にもわたる市民がそれを語り継ぎ、守り続けています。ヨーロッパを旅する多くの人が、劇場の外観から、シェークスピアを夢想し、ベートーベンを聞くのはなぜでしょう。
 世界の誰もが愛し、憧れる京都の街はどうあるべきか。答えは考えるまでもないでしょう。(「週刊しんぶん京都民報」2012年5月27日付掲載)