コンピューターのソフト販売の営業マンでした。社長は、毎月の朝礼で売り上げが伸びなければ、辞めてもらうと訓示していて、私の売り上げ成績不振を理由に、転職を要求してきました。解雇ということかと聞くとそういう事だと言われ、腹立ちまぎれに、辞めてしまいました。ところが、朝礼で訓示しているからと解雇予告手当ても払われず、腹の虫がおさまりません。(30歳、男性、京田辺市)

客観的で合理的な理由なしではダメ

(13)成績不振で解雇は?イラスト・辻井タカヒロ

 酷いですね。簡単に解雇はできません。営業マンも労働者として会社と労働契約を結んで働くことになっています。今年3月から施行されている労働契約法は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(第16条)と規定しています。
 会社は、労働者を受け入れて働かせている以上、客観的に合理的な理由がない限り解雇をすることができず、継続して雇用を維持する義務があります。「売り上げ成績」は、労働者個人にだけ責任があるとは言えません。経済状況、競争他社の存在、会社の販売方針などに大きく影響を受けるものです。労働者の責任を強調する社長の言い分は経営的合理性もありませんが、労働法的にはまったく通用しません。
 労働契約の終了には、いくつかの種類があります。労働者から終了させることを「退職」といい、使用者から終了させることを「解雇」と言います。解雇は労働者が望まないのに雇用を失うことですので、労働契約法をはじめ多くの保護規定があります。使用者としても簡単に解雇はできません。しかし、退職は労働者自身の意思によるので、原則として法的保護がありません。雇用保険でも自己都合退職として支給制限を受ける危険性があります。
 会社側は、解雇に対する法規制を避けるために、労働者のほうが自分から「辞める」という退職の形をとらせようとします。「辞める」と言ったことにつけこんで、経営者から「退職だから解雇予告手当は支払わない」とされ、さらに、ハローワークでも「自己都合退職」を理由に支給を3カ月間してもらえなかった、という例が少なくありません。解雇と退職の違いをしっかり理解して対応しないと不利な目に遭います。
 ご相談の場合、「退職の撤回」も不可能ではありませんが、その場ですぐに対応せず、地域労働組合などに相談して対応することが必要です。いまからでもできるだけ早く相談して下さい。(「週刊しんぶん京都民報」2008年6月8日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。