日本政府はTPP参加でどんな利益を得ようとしているのか。参加しなければ世界の流れに乗り遅れるかのような宣伝をしていますが、日本の国民が得る利益はわずかで国全体としては長期的にマイナスの影響の方がはるかに大きいでしょう。また、日本の農業は壊滅的被害を受けることも明白です。
 日本の食料自給率が40%なのに対し、参加国のアメリカは124%、オーストラリアは173%です。食料を海外に依存しなければ国民が生活できない状況をさらに深刻化させる一方で、世界的な食糧難が発生して供給不安になったときにどうするのか、といった対応策を政府は示していません。
 自由貿易の利益を日本国民が得るためには、単に市場を開放するだけではなく、相手国にも理不尽な輸出制限などをしないように約束させなければなりません。しかし、日本政府は米政府が条約違反をした際に、断固としてモノが言えるでしょうか? 08年に米政府が小麦の輸出を制限したとき、日本ではうどんやパンなどが高騰し食卓を直撃しました。日本はこの問題を外交的に解決できませんでした。中国のレアアース輸出規制に対しても、首脳会談すらまともに行うことができず、相手の出方を待つだけでした。要するに、冷戦時代の外交をいまだに続けている日本はアメリカや中国などの大国と対等な交渉ができないのです。「平成の開国」なんて言いますが、構図的には江戸時代と同じく黒船で無理矢理、不利な開国を迫られている状況です。
 最後に、TPPは農業だけの問題ではありません。農業をてこに、アメリカからは医療や保険分野の市場開放や規制緩和が要求されるでしょう。農業を開けば、他の分野の開放を断る理由はなくなります。いざというときに備えのない日本にとってのTPPは国民の安全や安心にとって非常に危険です。(「週刊しんぶん京都民報」2011年01月30日付に掲載)