反体制的な笑いの人生

 今年の10月まで元気に舞台に立っていた茂山千之丞氏がまさか亡くなるとは思いもよらず、痛恨の極みである。
 私は2000年に千之丞氏の依頼で「ムツゴロウ」という新作狂言を書いた。その原作を千之丞氏はみごとな狂言に仕上げ、それを「スーパー狂言」と名づけた。そしてこれまでに「クローン人間ナマシマ」「王様と恐竜」を合わせて3作のスーパー狂言ができ上がった。「ムツゴロウ」は諫早湾の埋め立て、「王様と恐竜」はブッシュの始めたイラク戦争を諷刺したものである。千之丞氏のみごとな演出
と茂山一門の芸により、狂言をほとんど知らなかった私の脚本がそれぞれすばらしい演劇となった。
 千之丞氏は、京都府知事や京都市長の選挙のときに必ず進歩的政党の推薦する候補者の推薦人に名を連ねた。それは、狂言というものは反体制的であるべきであるという彼の信念にもとづいたものであろう。千之丞氏は甚だ反体制的でまことに粋な笑いの人生を送った。すばらしい人を失った思いである。(「週刊しんぶん京都民報」12月26日付)